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 健人が塞いでいた両手を下げて顔を覗かせたの。顔をぐしゃぐしゃに涙で濡らし、赤くした健人は救いを求めているように見えた。さっきまで健人を縛り付けていた呪縛のようなものが、薄い膜が解かれようとしているように見えてね。  その時、見上げている健人の視線がお二人から私に移ったの。何かを求めているような懇願した表情を見せていたわ。すると倣うように二人も私の方を振り向くの。アイコンタクトじゃないけれど、二人が私に健人に対して一言を求めている事がわかったわ。だからしゃがみ込んでいる健人の目線まで座って、健人に言ってやったの。 「もう、苦しまないで」  その一言で良かったのかどうか、わからなかったけれど、その後の健人はさっきの比じゃないくらいに地面に突っ伏しながら泣き叫んだわ。  健人が泣き叫んでいる最中、遠くの方で鐘の鳴る音が聞こえてね。いつか、健人と再会した美術館での出来事を思い出したの。あの時は再会の祝福のように聞こえたけれど、今度は麻衣さんが天国でカリヨンの鐘を鳴らしているように聞こえてね。健人に向けて鳴らしてくれているに違いないって、思わずにはいられなかったわ。  帰宅した後にかなさんにお礼のお便りを送ったの。かなさんの言葉がなかったら、私は真実まで辿り着けなかったはずだったから。やっぱりかなさんはいつも私の力になってくれる心の支えだった。 『こんばんは、かなさん。いつもありがとうございます。かなさんが言ってくれなければ私、一生後悔したと思います。かなさんのおかげで元彼が抱えていた悩みや苦しみに触れる事が出来ました。かなさんが気付かせてくれるきっかけを与えてくれたんです。本当にありがとうございます。ただ、今の元彼はすごく疲れています。心の休息って表現が合っているかわかりませんが、今は時間が必要だと思うんです。だって何年も闘い続けてきたんですから。だから私、元彼の心が回復するまで待ち続けたいと思います。例え、それがいつになるかわかりませんが、それでも待ち続けるって決めました。それまで私は自分磨きと夢に向かって頑張ろうと思います。いつか元彼の心の整理が出来るまで』
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