雪降る深夜にコーラが飲みたい

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 繰り返すが、今は真夜中。  こんな小さな靴をはく年齢の人間が、俺みたいにふらふらと出歩いていい時間ではない。  ワケ分かんねぇな……と、首をかしげつつも足跡追跡を再開してから数分後、俺の鼻はふいに美味しそうなにおいを感知した。  足跡を追いかけるため、ずっと下へ向けていた顔をにおいにつられて持ち上げれば、前方へ一軒、あかりを灯す店があった。  その店の軒下へかけられた赤い暖簾(のれん)には、『ラーメン』と白抜きの筆文字で書かれている。 (こんなところに、夜中に営業してるラーメン屋なんてあったっけ?)  身体も冷えてきたし入ってみようか? と考えていると、曇りガラスをはめた出入口の扉に小さな影がふたつ映った。  中から誰か出てくると察した俺は、何となく反射的に電信柱の後ろへ隠れてしまった。 「お、雪やんでんじゃん!」 「本当ですね」  こんな会話をしながら引き戸を開け、店内から出てきたのは、後ろ足二本で立って歩く猫たちだった。  二足歩行する猫の背の高さは、二匹とも小学校低学年から中学年くらいで、それぞれがひとつずつ銀色の岡持ちを持っている。 「先輩、あの……すみません」  突然のファンタジーな光景に、俺がぽかんと口を開けて目をしばたたかせていると、白いダッフルコートを着たトラ猫が、しょんぼり声で謝罪の言葉を口にした。 「何が?」  トラ猫より一歩先へ出て、夜空を見上げていた長毛種の黒猫が、トラ猫へ振り返る。  こちらは紺色のダウンコートを着ていた。 「靴、お借りしちゃって……」 「気にすんなよ。お前の靴、底がはがれてはけない状態なんだし」  黒猫がトラ猫の腕を軽く叩きつつ、「たまにはそういうこともある。しゃぁないって!」と言う姿を見ながら、俺はようやく理解した。 (肉球の跡は靴が壊れたトラ猫のもので、子供だと思ってた小さい靴跡は、他の靴はいた猫たちの足跡か!)
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