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誰もこのダサ男が、あの美しいシズだとは気付かないだろう。
エントランスで土下座する瑞希の後ろを、不審な表情で眺めながら入っていく住人の姿が映る。きっと初詣帰りに違いない。
現在の時刻は昼の十二時。
俺は寝起きだったが、それも先ほどまで仕事をしていたからだ。
カウントダウンライブを終え、打ち上げの後、メンバー全員とマネージャーとで恒例の初詣に出掛け別れた。
そして、ようやく心地良い疲れに身を任せ眠りについたのに、インターホンの連打で起こされたわけだ。
よく見てみれば、瑞希の格好は別れた時のままだった。
あれからすでに4時間以上は経過している。今まで何をしていたのか。瑞希の家は、俺の家より二つほど先の駅にある。ちなみに、別れた場所からは瑞希の家の方が近い。
まったく、と俺は呆れた溜息を吐きながら肩を落とす。正月早々エントランスで土下座をしていれば人目を引く。そろそろ通報されてもおかしくない状況になってきたため、俺はエントランスを開けてやった。
「さっさと上がってきたら?」
「あ、ありがと!」
勢い良く顔を上げた時に浮かべていた瑞希の笑顔に、眉間の皺と頬が自然と緩んだのは内緒だ。
瑞希がやってくる間に、珈琲をいれるべくサイフォンを用意する。コーヒーメーカーなる文明の利器があるが、喫茶店を営んでいた祖母の影響でサイフォンで入れるのが常となっていた。
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