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「はいはい、それは中で聞くから入って。珈琲冷めちゃうし」
「ありがとう」
中へと促すと、勝手知ったる家の中。
瑞希はリビングへと向かい、いつもの席へと腰掛ける。二人がけソファの右端が定位置だ。二人がけといっても、それを向かい合わせに置いているから真ん中に座ればいいのに、何故かいつも隅へと座る。空間が空いてるとなんとなくそこに座りたくなるんだけど、それを狙ってやっているとしたら相当なものだと思う。俺に対して好意なんてないと思うのに。
「はい。……寒かったでしょ」
温かい珈琲を差し出しながら、赤くなった指先を見つめて声をかけると、バツが悪そうに瑞希は笑った。
「あー……あのな、年末にガスと電気止められたって言ってただろ。ついに水まで止められてな。で、家でじっとしてたら凍死しそうだし、ファミレスに行く金もないし、冬馬のとこにすぐにでも押しかけようと思ったんだけど、冬馬疲れて寝てるだろうし……と思って……」
大体分かった。電車代もケチって歩いて帰ってきたけど家には帰れなくて、コンビニ点々としつつ、更に俺の家の側まで来たけど声をかけれなくて近くの公園に居たんだろうな。で、限界に近づいてきたからマンションのエントランスで土下座と。
深い溜息が出た。それに瑞希は怒ったのかとびくつくが、ただ呆れただけだ。
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