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三つ指ついて?
「冬馬、あけましておめでとうございまする。ぜひぜひ家に上げていただきたく候」
「アンタ、元旦早々、何やってんの……」
寝起きで不機嫌なまま眺めたインターホンの画面に映るのは、マンションのエントランスに土下座した我がバンドのリーダーであるシズこと、志那瑞希だった。
黒くぼっさぼさの髪の毛にラフな格好。きっと土下座してて見えないが、いつもつけているノンフレームの眼鏡もしているのだろう。
別に変装をしている訳ではなく、それが瑞希の普段の姿だ。
ステージに立てば、バンドメンバーの中で一番の美人だと噂される瑞希だが、それは素晴らしい化粧技術によって作り出されている。あれはいつ見ても凄い。瑞希の元の姿ももちろん悪くはないが、どこにでもいるお兄ちゃんといった風貌で、笑顔は可愛らしいが特に目立ったところはない。しかし、化粧映えする顔で、ささっと手慣れた様子で化粧していくとあっという間に化ける。
二重の瞳は少しタレ気味で、目元には色っぽさが滲む。すっとした鼻筋は強調され、ほんの少し上がった唇が優しげな印象をもたらしていた。普段はぼっさぼさの髪の毛もアイロンで伸ばされ、さらさらと色白な頬を滑り落ちる。
少し手を加えただけで、誰もが目を奪われるカリスマ的美人へと変貌するのだ。
しかし、そんなリーダーも今はただの不審者だ。
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