俺の足跡

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追いかけられている。さっきからずっと。 視線を感じる。痛いほどの視線を……。 でも俺は振り向けない。振り向いては、いけない。 買ったばかりの真新しい靴が、新雪に足跡をつける。 頭上からフワフワと舞い散る雪が、ひとひら、ふたひらと足元の白に溶け込んでゆく。 氷点下を下回る気温だ。身体もずいぶんと冷えてきている。早く、帰らなくては……。 家まではあと200メートルほどの距離だ。少し早く歩けば、きっとあいつも諦める。早く帰ろう。家では最愛の妻が、俺の帰りを待っている。 いや、俺の右手にぶら下がる買い物袋を待っていると表現した方が、正しいかもしれない……。 少し足早に歩を進める。 それでもまだ、視線を感じる。 振り向いてはいけない。絶対に駄目だ。こんなにもすぐ近くに家があるのに、今振り向いたら……先は見えている。
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