この愛が消えてしまう前に

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――――二年前 冬 「ひまわりホーム本社営業部より参りました高杉(リョウ)と申します! 大変遅くなり申し訳ございませんでした」  北国の小さな事務所に13時に到着予定の客人がようやくたどり着いたのは15時半過ぎ。  頭に雪を積もらせながら深い深いお辞儀と共に震える指先から名刺を受け取った。 「ご連絡は頂いておりましたし、新幹線が止まってしまったんじゃどうしようもないですよ。それよりもここまでの道のり大変だったでしょう?」  大雪の影響により途中で新幹線が止まってしまい五時間も足止めをくらっていたようだ。  駅からここまでの道路は本日未だ除雪車が通らずにいて、歩道だって雪をかき分けなきゃ歩けない。  そんな中歩いてきた彼にバスタオルを手渡してストーブの前にパイプ椅子を置いた。 「こちらにどうぞ。少し温まってください、今日は挨拶だけでしょう?」  可哀そうに。前の営業さんに何も習って来なかったのだろうか、北国での服装を。  薄いコートとマフラーのみ。  足元の革靴は濡れそぼり、靴下なんかもうグッショリだろう。  手袋すらしてない指先は真っ赤になりずっと揉み手をしていて、せっかくの温かいコーヒーも持ち上げれないでいる。 「ちょっと待っててくださいね」  一度奥に引っ込み、うちの社で作っている軍足靴下とメンズの雪用マリンブーツを出してくる。  足のサイズはLくらいかな? 「靴下も靴も乾かさないと! これに履き替えてください、サイズが合わなかったら他にもありますし」 「え?」 「サンプルですから差し上げます。ご遠慮なく」 「あ、あの、良ければ買わせて下さい、お願いします」 「だったら御社で売っているうちの商品をたくさん買って下さいませんか? その方が潤いますから」  ちゃっかりとした私のセールストークに眉尻を下げ困った顔で微笑み、震える指先で必死に靴下を脱いでいる。 「乾かしましょう」  手を伸ばすと必死に首を横に振って後ろ手に濡れた靴下を隠してしまう。  それを無理やりにもぎ取ると、恥ずかしそうに真っ赤になって。 「捨てます、もう捨てますんで」 「明日また来られますよね? 東京に戻る前に。だったら洗濯しておきます。革靴は今晩ここで預かりますね、明日には乾くと思います」 「何から何まで本当にすみません」 「いいんですよ、雪国生まれじゃないとどんな対策して来たらいいかわかりませんよね」
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