この愛が消えてしまう前に

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 会うたびにお互い惹かれあっていくことに気づいていた。  私が好きなお酒を美味しいと飲んでくれる彼とは。  同じ猫好きで聞いている音楽の趣味もよく似ていて一緒にいると楽しくて離れがたくて。  次回はまた違ったお店を紹介しますね、と約束して彼が出張に来る日を心待ちにしていた。 「東京の桜はもう散り始めちゃったんですよ」 「だったら諒さんは今年二回目ですか?」 「二回目というか、会社の隣に公園があってね、咲き始めから終りまで毎日見てたから何回目になるんだろ」  彼のことを諒さん、私のことを冬優さんと呼び始めたのは3回目の飲み会。  4回目の今日は飲み会の後に夜桜デートに誘われた。  酔いに任せないと私たちはどうにも焦れったい。 「ちょっと、待って」  足を止めた彼に気づき、私も立ち止まる。   「桜、ついてる」  指先で私の髪についた花びらをつまみ上げ、ほらねと笑った彼。 「諒さんだってついてるよ」  背伸びして彼の頭に手を伸ばしたら。  すぐ目の前に彼の顔があって。 「ごめんっ、」  慌てて離れようとした私を急に抱き寄せて、そっと触れる唇。  夜桜の下、満月が見守る中で。   「遠距離だから……、言いだせなくてゴメン。本当はずっと冬優さんのことが好きでした」  またしてもお酒の勢いに任せただろう彼は恥ずかしそうに唇を噛みしめた。 「いつ言ってくれるかな、って待ってました」  きっとお互い何度か恋愛経験はあるし、いい大人だ。  それでもこんな風に始まる瞬間は照れちゃうし、嬉しい。  遠距離恋愛というものに関しては未経験だった私たちは戸惑いもあれど、おはようのメッセージやテレビ電話で。  それとなく少しずつ恋人らしくなっていった。  会いたいや触れたいという想いは焦れに焦れて。  5回目の初夏に訪れる彼の出張までの時間は思う存分切なさのエッセンスとなって膨らむ。
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