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明け方まで降り続いた雪はいつの間にか止み。
玄関の引き戸を頼りに寄りかかっていた雪の層は、開けた瞬間に内側へと雪崩れ込んできた。
「雪かきしていこうか?」
困った顔をした彼に苦笑いをし頭を振る。
「時間ないでしょ?」
それはそうだけど、と頷いて足元に広がる雪のまだ汚れていない真っ白な部分を片手で掬いギュッと握り。
「じゃあ、行くね」
私の手の平にいびつな形の小さな小さな雪玉を乗せ。
ひざ丈のマリンブーツと同じぐらい積もった雪。
駅へと続く道に降り積もった深雪を踏み固める様に、一歩一歩ゆっくりと遠ざかっていく。
「転ばないでね、除雪車に気を付けて!」
一瞬足を止めて口元だけを隠したマフラー姿で。
頷き振り返る彼の目は出逢った日のように優しく微笑んでいた。
いつもと同じ光景に「またね」と言いかけて止め、遠くなっていく背中を見送る。
一つ一つ想い出を落としていくような足跡、一瞬舞い上がったホワイトアウトに目を閉じて。
次に目を開くとその背中はもう消えていた。
手の平に乗った雪つぶての冷たさよりも心が冷たくなって。
「寒いな」
独り言ちたら涙が零れた。
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