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そこにいたのは、樹と同じ年ごろの娘だった。結った髪はあちこちほつれ、古びた縞模様の着物を着ている。いかにも田舎から奉公に来たという風体の娘だ。
娘は木の根元に座り、膝に顔を埋めて泣いていた。その足元には、先ほどまで追いかけていた桜の花びらが小山のようになっている。
足音に気が付いたのか、娘は怯えた様子で顔を上げた。
「君は誰だい?」
「お、おれは、ハルだ」
やっとそれだけ言うと、娘はまた膝に顔を埋めてしまった。途方に暮れた様子でこちらを見る樹を安心させようと夢子はひとつ頷いて、ハルの隣にしゃがみ込んだ。
「ハルちゃん、どうしてこんなところにいるの?」
「おれ、おれ……」
夢子がその背中を優しくさすると、ハルは次第に落ち着きを取り戻していった。
「どうやって戻ればいいか、わからなくなっちまったんだ」
「それなら誰かに聞いたらよかったじゃないか」
樹が呆れてそう言うと、ハルはうなだれて首を振った。
「誰にも会わなかったし、どこからきたのかもわからねえんだ」
それでは誰にも聞くことはできないし、送ってやりようもない。樹は困って、ううんと唸った。それを聞いたハルがまたぐすんと鼻を鳴らす。
「それに、部屋の戸はどこも開かねえし」
ハルの言葉に、二人は首を傾げた。夢子たちが足跡を追いかけて来た時、部屋の戸はすべて開いた。
そのことを言うと、ハルはまたはらはらと涙を流す。
その時、夢子の目に今まで辿ってきた桜の足跡が映った。
「そうだ! この足跡を引き返してみない?」
「引き返す?」
樹は不思議そうに夢子を見た。夢子はハルが立ち上がるのを助けながら、樹に説明をする。
「ずっとここにいるわけにはいかないもの。それに、ハルちゃんが入れなかった部屋の戸も今度は開くかもしれないでしょう?」
「なるほど。一理ある。行ってみよう」
樹は納得して何度も頷いた。夢子は不安そうなハルの手を取って笑いかける。すると、励まされたようにハルも小さく笑った。
樹が二人の先になって歩き出し、また冒険が始まった。
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