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追跡
はぁ……はぁ……はぁ……
すっかり上がった息を整える暇もなく、走り続けている。裸足の膝下、至る所がチクチクと痛む。丈の長い草葉の剃刀に似た薄刃が、歩を進める度に細かな切り傷を刻む。致命傷になるほどの深傷ではないが、それだけに心をポキリ、ポキリと端から折り砕いて戦意を奪っていく。
もう、いいか……此処いらで、諦めても……
目の前に広がるは、果てのない霧。視界を上げても下げても、白く濁った闇の中。我が身すら灰色の影としか捕らえられない。
「追え! ヤツは近くに居るぞ!」
「見失うな、続け!」
猛者共の互いに鼓舞する怒号が轟き――地を踏み駆ける足音が聞こえる。獲物に迫らんとする弾んだ呼気が、耳の側を掠めるような錯覚に、肌が粟立つ。
いや――ヤツを仕留めるのは、俺だ!
噛みしめた唇の端から、生温い鉄の味が垂れる。
「追えーっ!」
――追え!
「逃すなぁー!」
――逃すな!
男達の声に、頭の中で呼応する。
はぁ……はぁ……はぁ……
温度のない霧が一層深まり、生臭い呼気が頰を撫で、汗ばんだ首筋にねっとりと絡みつく。
駆け行く先は、未だ見えず――。
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