第1篇② 鑑識眼

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 そもそも男は狙う相手を選ぶうえで、だらだらと死ぬ理由を書いたり方法を聞いたりしている奴は選ばなかった。そういう奴らは自分の状況を変えてくれる人を待っているのだ。  彼氏彼女、旦那嫁に不倫されたとかで自殺を考えているなんて言う奴は持ってのほか。こんな趣味を持っていなくても絶対に関わってはいけないゴミだ。  本気の人は「#自殺」とだけ投稿したり、「#自殺 決めた」とか書いている。アカウントのプロフィールも雑だし、日々の投稿も少ない。  そういった本気の人を見分ける鑑識眼も男は経験で培っていた。  だから送られてきたメッセージから、相手が本気の人であるとすぐに分かった。 「決めているのなら止めません。今まで人生お疲れさまでした。死ぬんだったら楽なほうがいいでしょうし楽な死に方や自殺のスポット教えます。必要ならお金や道具もあげます」  このように男は返信した。コピーして保存してあるいつもの返しだ。 「警察の人ですか?」  すると、また返信があった。これもよく言われることだった。自殺志願者から見れば優しすぎて逆に怪しい。特定して自殺を直接止めようとしているように見えるのかもしれない。 「いえ。自殺は幸せへの道の1つだと思ってます。死ぬのはやり方によっては痛い事じゃないし、救いになるんじゃないかと。僕は人を救いたいボランティアです――」  この男性か女性かも分からない本気の人はまんまと男に教えを乞った。この人は分かってくれる人だと思わされた。  死ぬことを肯定し、そのほうが救われると伝えるのがコツだ。  そして男の言葉巧みなやり取りの末に、男へ自殺現場まで送ってもらうことも後日約束することになった……。
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