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顔を上げずに告げる。
「言われて気づいたんだ。俺、相当デリカシー無い事してたかもしれないって。お前は惚れ薬なんて訳わかんないもの飲まされて、混乱してた筈なのに、肝心の俺が気づかいもしなかった。本当なら好きでもない奴を、いきなり恋愛感情で好きになるって、その……想像しか出来ないけど、辛いだろうに。そのせいで、俺の言動ひとつに傷つく事もあっただろうし……だから、ごめん」
しばらく沈黙が支配した。家にまで押しかけてきていきなり謝られるのは、やはり気に触っただろうか。これで彼との仲が修復不可能になってしまう可能性すらあった。しかしそれでも、結局はこうして謝るしか、自分には方法がなかった。
傷つけるつもりなんて無かったと、どうしても彼に伝えたかった。
つむじ辺りに高遠の視線を感じる。そして次には深い吐息の音を聞いた。
「そう来るか……近野、お前って本当に」
一瞬、聞き間違いかと思った。彼の声は嘆いているようでもあり、それでいて笑っているように聞こえたのだ。
驚きでつい顔を上げてみるが、そこにはいつもの仏頂面があるだけで、笑顔はない。
「お前って本当に馬鹿だ。自分に好意を向けた相手に、片っ端から親切にしていくつもりか?その気もないのに、迷惑なくらいのお人好しだな」
「……」
そんな言葉を並べ立てられ、やっぱりこの男は可愛げの欠片もないと実感する。しかし今日においては、近野にも言い分があった。
「単純な親切だけじゃないさ。そっちこそ、その……俺に好意を感じるのは、単に惚れ薬のせいだろ。あの日言ってた嫉妬とかも、全部惚れ薬のせいだし。なのにいちいち気にして一人で塞ぎ込むなんて、律儀過ぎないか?もうちょっと開き直って、素直に頼ってきてもいいんじゃないかって、俺は思うけど」
もしここで殴られていても、文句は言えなかった。
出し抜けに滅茶苦茶な事を言い出している自覚はある。しかしそもそも、彼と自分の繋がりだって何もかもが滅茶苦茶なので、そこに多少の滅茶やら苦茶やらを上乗せしたところで、まあ今更だろう、とも思ったのだ。
「なあ、提案があるんだ。謝ったのは本気だよ。だけど、つまり本来なら、悪いのは高遠でも俺でもないと思わないか?元凶は全部惚れ薬なんだ。俺達は二人とも、惚れ薬に振り回されている被害者に過ぎない。そうだろ?」
面食らったような顔を見下ろし、精一杯のはったりをかまして胸を張る。謝罪の他に、これを言いたくてここまで来た。
「だから事が解決するまでは、なるべく協力し合おう。その方が、ギスギスするよりずっとお互いの為になる。共同戦線を張って、事を解決させる。どうかな」
握手のつもりで片手を差し出す。高遠和泉は言葉が出ないらしく、じっとこちらの手のひらを見つめ返してきた。
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