04「惚れ薬のせいだから」

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しかし、それだけで終わりでは無かった。 『対象について、貴方の好意度はどのくらいですか?』 丸文字フォントの問い掛けに対し、高遠は十段階の数字の内の、十──最高点に丸をつけた。 「……ちょ、ちょっと」 近野は狼狽する。しかし高遠はそれを無視して次の質問に取りかかる。 『一日の間、対象を思い出す頻度はどのくらいですか?』 十回以上、という答えに、彼は丸をつける。 「待て待て待て」 「なんだ」 「いや、なんだ?じゃないって。涼しい顔して何を見せてくれてんだよ」 これってどんな羞恥プレイだ。 居たたまれない。居たたまれないし、今すぐ何処か遠いところに消えたくなるくらい恥ずかしい。こんな恥ずかしい質問に、よくも淡々と答えられるものだ。 「ほ、本当に、そう思って答えてる?」 「ああ、なるべくありのまま答えろと、お前の先輩から念を押されてるからな」 「……十回以上も俺の何を思い出す事があるんだって……いや、いい!書かなくていいよ!備考欄を書くな!」 「詳細に書けと言われてるんだが」 「大真面目かよ!何なんだよお前」 「仕方ないだろ。これは全部惚れ薬のせいなんだから」 高遠はさらりと言ってのける。昨日こちらが提案した通り、開き直る事にしたらしい。 しかし急激な手のひら返しに、近野は翻弄され通しだ。 「ああそう……いや、やっぱ待て!それと俺にこのマークシート見せつけてくるのと、何の関係があるんだよ」 「関係は無いが、お前にとっても他人事じゃないんだから、把握しておいた方がいいだろ」 近野は頭を抱えて俯く。あっという間に熱を持ってしまった顔を、せめて誰にも見られまいとした。一方で雫は口元を押さえて頬を染めており、嵐山はひくひく痙攣しながら酸素を求める金魚の真似をしていた。 「なんだ?どうした?急にピンク色の空気が漏れだしてきたぞ」 「嵐山先輩の惚れ薬は、凄いくらいの効き目だという事ですね」 「そうか……実に素晴らしい!俺の才能は本物だったんだな!」 「ええ、勿論です」 騒がしい二人に、近野は心の中だけで恨み言を言う。楽しそうなのは良いですけど、貴方達も少しは反省してくれと。 高遠は淀みなく全ての質問に答えた。顔を上げてちらりと覗き込めば、殆ど全て、最高点に丸がついている。 ただひとつ、目が釘付けにされたのは最後の回答だった。 『今現在の、対象との関係性に対して、幸福を感じますか?』 そこだけ三という、中途半端に低い数字に丸がついていて、近野は言葉が出なくなる。 どういう意味で、その数字に丸をつけたのだろうか。一番考えうる可能性としては、惚れ薬によって無理矢理惚れた先があまりに悪くて、現状を煩わしく感じていると、そんな所だろうか。無理もないかもしれない。 少なからずショックを受けている自分が信じられず、無理矢理に思考を止める。馬鹿馬鹿しい、いったいそれについて、こちらが何かを気にする必要があるのか。 手首を握る高遠の手が離れた。彼は立ち上がり、嵐山にマークシートを渡している。 やっと取り返した自分の手首を、机の下で擦ってみる。握られていた箇所が妙に涼しくなって、落ち着かなかった。多分、高遠の手が熱かったせいかもしれない。顔色を変えないくせに、手のひらだけが熱を持っていたのは、特別な理由があるのだろうか。 (そんな筈ない。薬のせいなんだから) 気を楽にする為の呪文のように、繰り返す。 今やまったく他人事でなく、惚れ薬をどうにかしなければ、と本気で思った。可及的速やかに、事態を解決しなければ。 じゃないと、マズい。 非常にマズい。
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