蒼き空と白き羽は心動かしにつき!

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兵士の『ガイウス国王入場』の声と共に、しんと静まり返った会場。 国王の挨拶が終わり、調印式へと移る。 こういった同盟をよく思わない輩も多いため妨害もあると考えていた俺は何かあってもいいようにと、皆で警戒をしていた。 兵の呼び声に応え、天使族の代表リッツフェルが国王と同じ壇上へ案内される。 皆が固唾を飲んで見守る中、拍子抜けな程に調印の儀は万事滞りなく終了した。 最後に、王の手により証書を掲げられ、その場にいるもの達に異議を尋ねる。 誰も名乗り出る者はいなかった。 次に賛同する者は拍手をもって祝福すること・・・そう告げられた時、会場の貴族、王族、兵士と皆が歓喜の声を挙げ諸手を挙げて拍手を打ち鳴らした。 「っ・・・!」 満場一致での可決に、リッツフェルは涙を目に浮かべつつ深々と壇上から頭を下げる。 ポタリと落ちた嬉し涙に、皆がさらに胸を打たれ、更なる歓喜を呼び起こした。 「では、リッツフェル殿。今この時より、君たちは本当の意味で自由を手に入れたわけだが、まずは何かしたいことはあるかね?」 「ふっ・・・ぐす・・・うぅ・・・。うぅ・・・そう、ですね・・・。まずは、この青く美しい空をこの羽で飛んでみたいものです。」 リッツフェルが涙を拭いながら、王の言葉に頷くと、六枚の羽をそっと広げて見せる。 そのまま純白の美しい羽と、僅かに見える虹色のオーラにその場の一同が心を奪われた。 「そうか。それはさぞ美しい光景だろう・・・。今日は我らに新たな友人が加わった、めでたい日であるが故、私は心からその願いを叶えたいと思う。皆の者もきっと許してくれることだろう。」 王がリッツフェルの願いに頷くと、周りの兵たちは大広間の窓を全開に開いていく。 外から優しい風が大広間へと流れ込み、人々の髪や頬を撫でた。 「一番大きな窓がいい。私が案内しよう。」 「王様・・・!ありがとうございます・・・!」 「皆も一緒に。友の晴れ姿を讃えようではないか。近くへ来たまえ。」 ー おおぉ・・・!!! 王様がリッツフェルをエスコートするように手を差し出すと、ふわりと優しい笑みを浮かべてその手を取る。 粛々と二人は歩みを進め、大広間でも一番大きな窓の前へと歩みよる。 王と熾天使の後を続くように、皆が歩み寄った。 大きな窓の向こうはテラスになっており、広い空間に沢山の人々が集まる。 「さぁ、我が友よ。見せておくれ。我らミハエラの皆に。大願は必ず叶うということを。」 「・・・えぇ。お見せしましょう。我ら、天使族の悲願が叶う瞬間を。そして、どうかこの場の皆さんに知って欲しい。この翼は我らが友、この国の皆のためにあるということを。」 リッツフェルは大きく翼を広げる。 瞬間、羽がその場の皆へとフワリフワリと舞い落ちる。 人々はそっとその羽に手を差し出すと、自身の手に舞い降りた羽根を見つめる。 一枚羽であるが、それはとても大きく純白で美しい。 幼い頃に、天使の羽に触れた者は幸せが訪れると子供の頃から聞かされたされたお伽噺を、この場の誰もが思い出し思わず口が綻ぶ。 「見せてください、天使様・・・。」 「この青い空で、あなたの純白の羽が輝く光景を・・・!」 周りの皆が顔を輝かせリッツフェルに頷く。 その顔を見て、リッツフェルはフワリと優しい笑みを浮かべると優しく頷く。 「えぇ・・・見ていてください・・・。」 ー バサ!フワリ! 一仰ぎで、リッツフェルはフワリと浮かび上がると、そのまま空へと舞い上がった。 悠々と空を飛ぶ姿に、皆は歓声をあげる。 ー おおぉー・・・!! 「みんな・・・ありがとう・・・。本当に・・・ありがとう・・・。」 空で停滞したリッツフェルは涙で歪んだ視界で、見上げる皆を見つめ返す。 見下ろすのでは無い・・・。 見つめ返すのだ。 数多の種族を、その傲慢故に見下ろして、勝手に挑み勝手に自滅した古き天使族。 その過ちを許し、天使族を再び迎え入れてくれた人々に、リッツフェルは心から感謝と共に尊敬の念を抱く。 この人たちと目線を同じくし、同じものを見つめ、共に手を取り合い過ごしていきたい。 そう心から湧き上がる温かい想いに、リッツフェルは再び純白の翼を羽ばたかせる。 「みんな!本当にありがとう!王様!ありがとうございます!人間のみんな!大好きだよぉー!」 »»»- ズキュー♡ーン !! → ー バタバタ・・・!!! 「「と、尊い・・・。」」 リッツフェルの嬉し涙に濡れた笑顔と喜びに満ちた声に、その場にいた皆が胸を貫かれバタバタと倒れていった・・・。 皆が心をわし掴みされた瞬間だった・・・。 こうして、調印式は無事に終わりを迎えた。 晴れて天使族は同盟に迎えられ、その存在を皆が知るところとなったのだ。 大空を飛んでも皆が笑顔で手を振り返し、声をかけても笑顔を返してくれ、手を差し出せば握り返し共に歩んでいける。 そんな、世界に・・・ようやくなれたんだ。
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