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話し終えたシルフィは、三十年前から比べてかなり大きくなった大木を見上げると小さく息を吐く。
その目には、大粒の涙が溜まっていた。
この大木は見ていたのだ。見ていることしかできなかったのだ。
シモンの母が息絶える瞬間を。
無念の縁に沈む瞬間を。
この世で一番の愛情が断ち消えた瞬間を。
俺もシルフィと同じように、大木を見上げる。
大きな木だ。
しかし、どこかまだ若くも見えた。
まるで隣で俯くシモンのように、肩を震わせ泣いているようにも見えた。
「そんな・・・私のせいで・・・母は死んだのか?私の病を治そうと・・・。周りの反対を押し切って・・・?ここまでやってきて・・・力尽きて、死んだのか?」
嗚咽をもらしながら、シモンは母の足跡を辿る。
ここに来るまで、結構な距離もあった。
かなり危険な道もあった。
魔物もたくさん、襲ってきた。
その中をシモンの母は、我が子を救うべく単身でここまでやってきたのだ。
全身に傷を負い、千里を駆けて疲労困憊の姿で、その身に毒を受けながら・・・最後はようやく手にした薬草を持ち帰ることもできずに、ここで息絶えた・・・。
「そんな・・・っ!う、うぅ・・・うわああぁぁーん!!」
遂に感情を抑えることができなかったシモンは、堰を切ったようにように泣き始める・・・。
大の大人が、大の男が、声をあげて泣いている。
だが、誰も批難などしない。できるわけもない。
その涙と泣き声に込められた積年の想いは、誰かの言葉では拭えないのだ。
その涙を拭うのもまた、本人自身でなくてはいけないのだから。
「うわああぁぁーー・・・!!」
その母の前で泣きじゃくる子供のような声は、夜が深けるまでいつまでも響き続けていた。
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