王都に激震走りにつき!

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王都に激震走りにつき!

美神教(カリテス)完全敗北ならびに、美神教(カリテス)大司教の拘束の報せ』が、王都を駆け巡る。 魔王アスモデウスは、報せが広まると同時に百近くの兵を連れて王都に進行。 武器は持たない。一切の戦闘は行わないとの誓いのもと、王への謁見を願った。 こうして、歴史上初めてとなる王と魔王の直接の的な顔合わせが実現することとなったのだ。 それも全て、勇者ミラウェイドの必死の訴えが王に通じたからといえるだろう。 『我はアスモデウスという。以後は魔王と呼んでくれて構わない。まず初めに、此度の謁見を許可頂いたこと心より感謝する。人間の王よ。』 「・・・いやいや、感謝するのはこちらだよ、魔王アスモデウス殿。私はこの王都ミハエラの王ガイウスという。遠路遥々よく来てくれた。」 ガイウスと名乗った王は、玉座の前に立ち胸に手を当て軽く頭を下げる。 王が立場上示せる、最低限の礼といった感じだ。 まぁ、玉座に座ってふんぞり返ったまま、上から目線で会話をするような奴じゃないだけ十分にできた王だと思う。 「此度の件は全て聞き及んでいる。美神教(カリテス)の裏での行いも、その協力者たちの存在も全て聞かせてもらった。あろう事か我が城の中にも裏切り者がいたという事実。人間の話だというのに、魔王である貴殿の手を煩わせてしまったこと、心から謝罪させてもらいたい。全ては私の目が行き届いていなかったせいだ。本当に申し訳なかった。」 『いやいや・・・こちらのことは気にしないで欲しい。むしろ、人間の問題に首を突っ込まれ、王としては心中穏やかではいられないだろう。こちらそこ、貴殿の領土で勝手に騒ぎ立てたことを心からお詫び申し上げる。誠に申し訳なかった・・・。』 王が下げる頭に、俺は軽く手を向けて静止をかけると、領地へと入り込んだ自分に過失があることを伝え、軽く頭を下げる。 あくまでも、目に余る行為を見つけたから手を出しただけだと遠回しに伝えた。 『申し訳ついでに、人間の王よ。まず、誤解を解いておきたいのだがいいかな?』 「誤解とは?」 『我は魔王だが、今代の魔王とは別の存在だ。今回、現れたのは魔王リヴァイアサンだったか・・・あちらとは全くの無関係である。簡単にいえば、冬に起きた蝉とでも思って欲しい。こうして世に出てきたものの完全に孤立しているために、魔王軍にも人間にも馴染めず方々を彷徨い渡るだけの、はた迷惑な魔王と思ってもらって構わない。』 「冬の蝉か・・・?ふ、ふふ・・・ははは!なんともまぁ、それは実に心細いことだろう。私もそうした時期があったことを思い出すよ。初めて王として、ここに立った時、周りの人間が敵か味方か分からず、四苦八苦したものだ。」 やはり目の前にいるのが魔王ということで、少し警戒をみせる王に、自嘲気味に自身の立ち位置を分かりやすく伝えてみる。 すると、意外にも王にはツボに入ったのか、口に手を当てひとしきり笑うと何度も頷いていた。 少しは共感してくれる部分があったのだろう。 「では、貴殿は敵ではないという認識でいいかね?」 『あぁ。“我は悪い魔王じゃないよ”というヤツだ。』 「ふむ・・・新手の魔王ジョークかね?老いた私には、少し高度すぎるようだ。」 うっそーん。コレは外れるのかー。残念。 ガイウス王は、眉を寄せて首を捻ると苦笑を浮かべて肩を竦めてみせる。 『そうか・・・。我もまだまだ、研鑽が足りないな。魔王ジョークの腕も磨かなくてはいけないようだ。ふふ・・・!』 「ははは・・・!大丈夫だ。ジョークは難しくとも、貴殿が無害な王なのは十分に伝わってきた。」 比較的真剣に魔王ジョークなるものを極めるべきかと思い悩んでいると、王は毒気の抜かれたように柔らかな笑みを浮かべ、俺へと歩み寄ってきた。 「改めて歓迎しよう、アスモデウス殿。王都ミハエラへようこそ。貴殿が敵ではないというのなら、私はこの国の王として世にも珍しいお客様を歓迎するとしよう。この国に根付く問題を解決してくれた恩人でもあるしな。」 『ふふ・・・。感謝する、ガイウス王よ。』 「はは・・・!では、もう一度、貴殿の方から少し詳しい話を聞かせてもらえるかね?応接間へ案内しよう。」 差し出された手を握り返すと、ガイウス王はどこかこの状況を楽しむように微笑んでいた。
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