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周りに控えていた兵を下がらせると、広い部屋へと案内される。
俺の口から、改めて当時の状況や全体の流れ、また今後の方針などを聞きたいということらしい。
確かに王からすれば恩人ではあるだろうが、俺は魔王のはずだ。王と一対一のサシでの話し合いとは、あまりに無防備ではないだろうか。
その点に触れると、王は大きく笑い、俺の肩を叩いた。
「大丈夫だ。これでも、私は人を見る目はある方だからね。」
『・・・家臣に裏切り者がいた発言とは思えない。』
「ぐぅ!?痛いところをついてくるな・・・。」
『しかし、信じてくれる者へ、このままというのも失礼か。我も腹を割るとしよう。【 武装解除 】。』
胸に手を当てて苦い顔をする王に俺は苦笑を浮かべると、自分なりの誠意を示すべく鎧を外して王の前に立つ。
見た目だけでも、人間に近い方が王様も話しやすいだろう。威圧感もなくなるしね。
「ほぅ?魔王殿は人間にも化けれるのか。」
「というより、人間ですけどね。」
自身の姿をまじまじと見つめられ、少し気恥しさからポリポリと頬を掻いて苦笑すると、ガイウス王は何か納得したように何度も頷いていた。
「どこまでも、イレギュラーということか。ふむ・・・。しかし、人間だったとは。どおりで魔族と話しているような感覚を受けなかったわけだな。固定概念とは恐ろしものだね。」
「・・・実は魔族とはまだあったことがないんですよね。どんな感じなんです?」
「んー・・・一言でいえば、“ただ不快”。と言った感じか。アスモデウス殿とは全く違う。」
「あ、本名は栄咲遊助といいます。」
「ふふ!サカエ殿か。我が国の恩人よ。これからもよろしく頼むよ。」
こちらだと、案内されたのは数人が座れる大きな机が置かれた広い部屋だった。
「あ、ミラくんを呼んでもいいですか?彼も当事者なので、一緒にいてくれると話しやすいです。勇者としての意見も聞きたいですし。」
「あぁ、構わないよ。なんなら、天使たちも呼ぶといい。彼らも居た方が話もスムーズに進むだろう?」
「はは・・・さすが、何でもお見通しですね。」
予想を超えてきた回答に俺は思わず目を丸めると、王は少し得意げに胸を張り応対用の椅子に腰を下ろした。
「はぁ〜〜。長く立っているのは膝にくる。身体は年々重くなるばかり。やはり、歳には勝てないものだね。私も老いたものだ。」
「まだまだ、お若く見えますよ?」
「ふふ!気持ちだけは、常に若々しくあるように心掛けているからな。年寄り臭いことをいうと、妻と息子 娘たちがうるさいのだよ。」
窓から見える街並みを眺めながら、王は笑みを浮かべると、それもまた幸せな事だと呟いた。
この人は、小さな幸せの大切さを知っている。
とても幸福な人なのだと、改めて感心した。
「老骨だが、まだやれることもある。それに、やり残したことも多い。全てを叶えることは難しくとも、せめて、この国の民がこれから先も幸せに暮らせるように尽力して行くつもりだよ。だからこそ、手を取り合える者がいるなら迷わず取る。この国を少しでも、存えるために。天使の件もその為だった。彼らのもたらす恩恵は計り知れない。元来から持っている奇跡に近い治癒魔法や精神干渉スキルもその一つだ。正しく使えば、この国に多大な恩恵を運んでくれるはずだった。今回のことは実に残念だよ。」
「しかし、それもまた人間が撒いた種でもあります。」
「あぁ、そうだね。私欲のために利用しようとする者達のせいで、美神教は大きく歪んでしまった。それを止められなかったのは、王である私の管理の甘さが原因だ。結果、民を不安にさせてしまった。天使族も苦しい立場に追い込んでしまった。本当に申し訳なく思う。」
「王は・・・天使族を迎え入れるつもりだったんですか?」
「一度、刃を向けあったもの達だが、互いの利が一致しやすいことも分かっていた。天使のスキルは人間と相性がよくとても効果が高い。また、繁殖力が乏しい天使は、人間と交わることで安定した種の繁栄を手に入れることができるはずだった・・・。美神教を通じ、天使の傲慢な印象を塗り替えることができた時には改めて、天使族として迎え入れるつもりだったのだが、今となっては、それも正しかったのか分からない。今回の件が明るみに出れば、人間側に天使の悪い面だけが色濃く伝わってしまうだろう。また、天使たちには苦しい想いをさせてしまう。」
概ね以前に予想していたとおりだったわけか。王自身も天使たちのことは認め、種として互いに手を取り合う未来を思い描いていたらしい。
表舞台に立たせるための準備を美神教に委託していたつもりだったようだが、その実態は期待と真逆のものとなってしまったようだ。
俺たちの世界なら、間違いなく任命責任を問われる事案だな。
ートントントン!
「どうぞ。」
「失礼します。ミラウェイド様とお付の皆様をお連れしました。」
「失礼します。って、あれ?鎧外してるの?身バレ大丈夫なの?」
「いや、あの格好はあまりに失礼かと思って・・・。それにあの喋り方疲れるし。」
「あぁ・・・確かにね・・・。」
メイドさんに案内されて部屋へとミラウェイドと天使たちが入室してくる。
皆、俺が甲冑をつけていると思ったのだろう。
驚きと心配の声が投げかけられる。
「ふむ・・・。確かに、今思えば無理していたようにも思えたな。サカエ殿は、こちらの姿の方が素だったんだね。」
「えぇ、実は。」
「王様!今日は無理を言ってすみませんでした!」
「ふふ!いや、いいよ。むしろ、出会えて良かった。老人の話をしっかりと聞いてくれるとても素晴らしい好青年だ。紹介してくれてありがとう、ミラ殿。」
「えへへ!そうでしょ!サカエくんはすごく優しいんだ!」
「そうか、そうか。優しい魔王か。」
王は和やかに微笑むと、駆け寄ってきたミラウェイドに軽く頭を下げて感謝を述べる。
傍から見ても、RPGのような王様と勇者のような関係には見えなかった。
その和やかな雰囲気はまるで、おじいちゃんと孫のようだった。
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