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それぞれ、天使たちも王様へと自己紹介が済んだところで話を再開することとなった。
「それでは、話を始めようか。今後の対応について、サカエ殿の意見を聞こう。どのようにして、この事態を終わらせるべきだと思う?」
「・・・まずは美神教の改革を行いたいと思ってます。」
「改革?解体ではなくかね?」
「長い年月をかけて、ここまで大きく成長を遂げた美神教は、人々の生活に深い部分まで根ざしています。それを解体するとなると、一筋縄ではいかないでしょう。今各地で起きている美神教を巡る暴動も、数日中には鎮火し、何事もなかったように日常が戻ってくるはずです。」
「この暴動の発端は、美神教の裏取引と一部の王都貴族の関係が表に出たことだったね。この情報は、君たちが撒いた種かな?」
「えぇ。もちろん、我々も放火魔ではありません。鎮火する術も考えてあります。まずは・・・」
事態を収束させる案を伝えると、王は二三の修正の後に、協力することを同意してくれた。
基本的に懲悪の名のもとに、此度の件で人身売買に関わった者たちへ厳罰を行うことになる。
美神教側からはディケーナに教会を構えていた司教と、各地方でやはり同じように裏で取引をしていた数名が厳罰に処されることに。
王都貴族の中にも、取引を行っていた者の財産没収。
そして、王の側近であり意見役だった男が謀反を企てていた事が芋ずる式で発覚しこちらは極刑となった。
そして・・・問題であるシモンについてだが・・・
「彼はどうするべきかね?本人は全てを認め、厳罰を望んでいるそうだが?」
「そうですね。それが一番、丸く収まる方法と思います。大司教シモンとその父がそもそも、この美神教と天使のシステムを作り上げたわけですから。ただ・・・。」
俺は目を細めて、窓から見える街並を眺める。そこでは、通りを駆け回る子供たちや元気に商売をする商人たちの姿。
そして、普通に生活する人々の姿が映っていた。
「それを行えば、当然ながら天使の存在が“悪”として世間に認識されるでしょう。そうなれば、天使という存在は社会から完全に弾き出されてしまう。」
「・・・ふむ。確かに。美神教が立ち上がった経緯は私も知っている。元々は戦火から逃れた天使たちを匿うための場所だったそうだね?」
王は天使たちに目を向けると、当時の状況を確認する。
「はい。大戦が起こる前から教祖キレネは、天使と親交がありました。キレネの恩情で、私たちは隠れ家となる美神教に迎えられたのです。人々に治癒魔法を施す代わりに、衣食住を提供してくれました・・・。そして・・・その・・・。」
告白している相手は国の最高権力者だ。とても言い難い内容だが、下手に隠せばさらに不信感を生みかねない。
ここは、処罰も覚悟で包み隠さず伝えて置くべきだ。
「ふむ・・・他に何かあるのかね?」
「じ、実は年に数度、怪しまれない程度にですが種を増やすことを許されていました。」
「キレネとシモン、二人の同意の元、性行為を行っていたのか?ふむ・・・そういえば、民から天使が産まれたという報告が入っていたな。美神教に所属している者からの声だったから、“奇跡を受ける代償”として変異していたのかと思っていたが、そういうカラクリがあったのか・・・。はぁ・・・。なんと、馬鹿なことを・・・。」
「申し訳ございません・・・。」
「ちなみに、宗教に関与していない一般の人間に種を残そうとしたことはあるかね?」
「私たち大天使は徹底的にその点は守ってきたつもりでしたが、下位の天使、特にテリトリーを追い出された“はぐれ”と言われる天使たちの中には、決まりを破っていた者もいたようです。完全に私たち大天使の管理不足といえます。大変、申し訳ございません。」
ちらりと俺を見て、申し訳なさそうに大天使ラファエロは頭を下げる。
恐らく、気にしているのは観月のことだろう。
未遂ではあったが、観月はあれから俺とピッタリ寝ないと寝れない身体になってしまったんだぞ。
まったく・・・(不謹慎だが、ちょっと嬉しい・・・)。
「たとえ、美神教に入っていても、我が国民であることに変わりない。私の大切な民なのだ。王のあずかり知らぬところで、繁殖活動を行ったことは大罪であることは分かるな?民を襲い、その身体を弄び、その後の人生に大きな影響を遺したことは極刑に処されても仕方ないことなのだぞ?その事は重々、肝に命じるように。」
「はい・・・申し訳ございません。」
少し、怒りの篭った声に思わず身を震わせると天使たちは静かに俯く。
誠、王の言う通りであり、天使たちのやってきたことは侵略行為と何ら変わりないことは確かだ。
その点を踏まえて、彼らは償っていかなければならないだろう。
自身の生命をかけてでも。
「・・・ふぅ。しかしまぁ。美神教の問題が表に出てからは、確認している範囲では、“天使を産んだ母親”たちからは、子供の安否を心配する声ばかり寄せられた。さすがは母親だな。美神教の存亡よりも、お腹を痛めて産んだ我が子のことの方が心配なのだろう。」
静かに息を吐くと、何とか怒りを抑えることができたのか口元に苦笑を浮かべ、一枚の書類を引き出しから取り出した。
「今回は不問とするが、その代わりにいくつか約束をしてもらおうか。」
「や、約束ですか・・・?」
「そう、私と天使たちとの間での約束だ。アスモデウス殿には、証人として立ち会いをお願いしよう。では、まず・・・。」
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国王ガイウス・天使族による契約について
一つ、天使は美神教に席を置き、王族の管理の元、協力して人々の生活を支援能力の許す限り手助けをすること。
一つ、夜の飛行は危険であり、また誤解を産む恐れがあるため極力避けること。ただし、緊急事態を除く。
一つ、大戦の折に没収された天使の権利は一部の権利を残し返還される。この“一部”とは、人族と敵対する行為(略奪・強奪・侵略)を禁ずるものである。
破った場合、対象は人族の法に則り厳罰に処すものとする。
ただし、種の存亡に関わると判断される場合は一時的にこれに該当しないものとする。
一つ、人族は天使を種として認め、人族と同じ生活圏で暮らすことを許可するものとする。
以上のことが守られる限り、半永久的に天使族の身の安全は国王の治める領地内に限り保証されるものとする。
尚、契約に変更がある場合、天使と魔王の許可がなくとも、王は変更できる権利がある。
王都ミハエラ 国王 ガイウス
天使族 代表 リッツフェル
立会人 魔王 アスモデウス
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声に出しながら、馴れた手つきで書面を作成すると、王は指輪を外し朱肉をつける。
そのまま、書類に署名と捺印を施した。
王が使用したのは、シグネットリングと呼ばれるものだろう。
「さて、この書類の意味は分かるかね?リッツフェル殿。」
「これは・・・。」
差し出された書類を手にしたリッツフェルは、穴が空きそうなほどまじまじと見つめると、顔を上げて眉を寄せる。
「お、王様・・・これって、まさか・・・。」
「あぁ。大戦で先代が取り上げた天使族の権利返還を認める書類だ。一部、人間の都合に合わせてもらう点もあるが、概ねこれで自由の身になったわけだ。これにより、天使は種族として認められる。大手を振って、街の中を歩き回るもよし、世界を飛び回るもよし。この広大な青空を満喫したまえ。ただし、安全飛行は心がけるようにな?」
「っ〜〜~!!」
リッツフェルは王の前に膝を折ると、胸に手を当て深々と頭を下げる。
長であるリッツフェルが頭を下げたことで、周りにいた大天使達も倣うように王の前へと跪いた。
「国王の寛大なお心遣い、心より感謝致します!」
「「ありがとうございます!!」」
こうして、天使たちは種族として認められ、晴れて人族との連合種族の仲間入りを果たしたのだった。
つまり、俺たちの戦いの目的の一つである、天使たちの自由が手に入った瞬間であった!
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