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他の二人も驚く様子は見せなかった。
二人とも俺と同じように、どこか気付いていたが、黙っていたって感じだな。
「名乗り出ないのか?」
「今更だよ。彼は母親の愛に気付いたんだ。今伝えたところで、何も変わりない。それにほら、実際に運んだのも一年くらいだったしね。そんな子供の頃のたった一年のことを今更掘り返しても、恩着せがましくなるだけだって。そんな嫌なヤツにはなりたくないんだよ、オレは。」
「恩着せがましいか?一年って短いようで、結構長いぞ?それに、こういうのは期間や年齢の話じゃないだろ?その一年で、しっかりと処置ができてたから、今のシモンがあるわけだし。何もしなければ、死んでたんだぞ?恩に報いてもらって当然だと思うけどな。俺がシモンなら、むしろ知りたいくらいだ。」
俺の言葉に、他の二人も無言で頷く。
別に言ったからって、悪い事にはならないはずだ。
むしろ、その行いは感謝されて然るべきだし、伝えることで、母ではないにしろ、確かに愛情を受けていた証になるのではないだろうか。
「伝えようぜ?お前が恩人だって。お前が長い間、シモンを想ってたって。」
「いや、このままでいい。オレに、彼に感謝なんてされる資格はないんだ・・・。」
「資格?」
「・・・・・・そう、資格だよ。母親が飛び出して行ったと聞いて、目撃者を頼りに方々を飛び回って、彼女をようやく見つけたんだ。だけど、間に合わなかった・・・。その手には薬草が握られていて、そのまま事切れていたんだ。人の足であんなに遠くまで、危険な道のりだったはずだ。そんな、彼女の愛がとても眩しく思えて、同時に許せなかった。シモンを悲しませる彼女がとても、とても憎かった。だから、“私”は母以上に側にいてシモンを支えようとその時、誓ったんだ。・・・でも・・・結局、彼を本当の苦しみを今の今まで理解してあげられなかったんだ・・・。そんな私に資格なんて・・・う、うぅ・・・!」
話している内に秘めていた想いが一気に溢れ出したのか、ついには泣き始めるガブリエル。
その背中をラファとミカエルが優しく撫でる。
「お前はよくやってたさ。」
「うんうん!頑張ってたよー。シモンも一番、信頼してたのガブリエルだったもん。」
「だな?口を開けば、ガブリエル、ガブリエルってさ。いつも、お前を探してたんだぞ?なんだかんだ、アイツも心の何処かで、お前に心を許してたんだと思うよ。・・・ただ、そうだな。求めていたのは、親友のような“情”じゃなくて、母親からの愛情、そしてそれがねじ曲がった女性への情だった。アイツを心から愛するっていう女性が一人出てきてくれれば、彼の世界は一変したかもしれないな。」
「オレは・・・シモンのこと、好きだぞ?恋人や妻に負けないくらいシモンが大好きなんだよぉー・・・。」
「でもねー・・・ガブリエル、“男”だからさー・・・。」
「いいじゃないか!同性でも!オレはシモンが好きだ!大好きなんだよ!」
「気持ちは分かるが・・・シモンも男だからさ。やっぱり、跡取りとかも考えてたんじゃないか?母性・・・っていうのかな?シスターたちとよく、“説教”してたし。だから、ルシファー姐さん(リッツフェル)に惹かれたわけだし。」
「うぅー・・・!姐さん、ズルすぎるよー!」
膝を抱えて、ついにはグズグズと泣き出してしまうガブリエル。
性別はどうにならないものなぁ、と二人は慰めるようにポンポンとガブリエルの背中を撫でる。
「でも、驚いたなー・・・。熾天使になると、性別が変えれるんだねー。」
「オレたち大天使は、天使から進化した時点で性別が決められたもんな。熾天使になったら、自由に選べるなんて知らなかったよ。」
「自分たちの身体なのに、よくわかんないよねー・・・。」
「だなー。」
大天使たちは、俺の“アスモデウスの悪夢”を受けていたが、変化は未完で終わっていた。
下級天使たちは楽に性別を女性にすることができたが、大天使たちは精神干渉スキルの能力が高いため、影響が比較的抑えられてしまったようだ。
故に、三人とも女性にはなっていない。
かといって、サカエが発動したのは魔王クラスのスキル。流石の三人も無影響とまではいかなかった。
これは当人たちにしか分からないことだが、女性を見ても興奮しなくなっていたのだ。
魔王に折檻されたことで、聖人と同じくらいに欲が抑えられるようになっていた。
「うぅー・・・!シモン~・・・!」
「はぁ・・・。つまり、あーだこーだ理由を着けてたけど、結局のところは同性だから素直に気持ちを口に出せないでいたってことだな?」
ようやく三人の話が切れたところで、俺はようやく口を開く。
というか、そういうことなら早く言って欲しかった・・・。
「そういうことなら、どうにかできるぞ。良かったな!この、“恋と博愛の王”アスモデウスに任せるといい!」
「・・・いや、“色欲と激情の魔王”じゃなかったか?」
「ははは!細かいこと気にするな!ハゲるぞ?」
「ハ・・・!?いやそれ、アスモデウスのアイデンティティだろ!?細かくないぞ!もっと、設定を大切にだなぁ!?」
「五月蝿い。あんまりしつこいと、“激怒る”ぞ?」
「「おかえり!アイデンティティ・・・!」」
「よし!んじゃ、ちゃっちゃとやろうぜ!」
グダグダとまだ喋ろうとする三人に、ギロリと睨みを利かせるとオレはガブリエルを抱える。
「やるってなにを!?オレ、何されるの!?」
「いいから、いいから~。悪いようにはしないからさぁ~。」
「な!?えぇ!?ちょっ!?」
目を丸めて驚きの声を漏らすガブリエルをそのまま抱えて屋根から飛び降りると、礼拝堂へと誰に詫びることもせず、ズカズカと入っていく。
ー だ、誰!?
ー 一体、何事!?
ー ちょ、みんなイケメンなんだが!?
「あ、あぁーえっとー、あのー。教会の者でーす。今から、少し礼拝堂の掃除をしますので、皆さんご退出願いマースです!」
「す、すみません!急で本当すみません!」
あとから着いていたミカエルとラファが中でまだ礼拝を行っていた二、三人の民間人を掃除と偽り、半ば強引に追い出す。
そんな周りのことなど気にせず、俺は女神像の前に置かれた献花台の上にガブリエルを寝かせると、その頭に手を置いた・・・。
「お、お前・・・!?本当、何する気だ!?」
「何って、そりゃ・・・ねぇ?シモンとガブリエルの間に架け橋を架けるんだよ。なぁ!“お前もそれを望んでるだろ?”」
『・・・・・・きぃきィキィ!あぁ、酒とオモシロイことは大好きだぁ~。』
俺はにっこりと笑うと、女神像の肩に乗った【 我が友 】へと声をかけた・・・。
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