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第3話 思いがけない出会い
「ハ〜イ、あなたチャイニーズ?
それともジャパニーズ?」
「僕ですか?」
初めての授業の日、僕の隣の席に座った彼女が訪ねてきた。
「イエ〜ス!あなたよ!
それで? どっちなの?」
彼女は人懐っこいブルーの瞳をキラキラとさせて、
僕の答えを今か今かと待っている。
「僕はジャパニーズです。
コージと言います。
コージ・ヤノです」
「そう! ジャパニーズなのね!
私はアリッサよ、宜しくね」
「いえ、こちらこそ……」
「ね、突然だけどさ、
私、アニメの大ファンなの。
アニメってニッポンから来てるんでしょ?
ニッポンってアニメの世界そのものなの?
一度行ってみたいわ〜」
と、このアリッサという女の子はとてもフレンドリーな様だ。
ハッキリ言って僕にはアニメの世界は良く分からない。
でも日本がアニメの様な世界だと言うのは
ちょっと?いや、全然か? 僕的には違うと思う。
彼女の夢を壊したくはなかったけど、
「アニメの世界と現実はちょっと違うかな〜?」
と、僕も馬鹿正直に答えてしまった。
そのあとガクッと項垂れた彼女をみるのは可哀想だったけど、
今現実を知っていたら、
いつか日本へ行く機会があった時、
その時に本当の事を知ってがっかりするよりも日本を楽しめるだろう。
「ねえ、コージってニッポンの何処から来たの?」
「東京だよ」
そう答えると、彼女は興奮した様に、
「トーキョー行ってみたい!
ハラジュク、シンジュク、アサクサ、ニッコー、シブヤにアキハバラ!」
と叫んだ。
「ハハハ、よく知ってるね」
「ハイ〜 私オタクです!」
どうやらアリッサは日本オタクの様だ。
「君、アリッサだっけ?
良くオタクなんて言葉知ってるね?」
「私、日本語学んでま~す!
コージも英語上手ね。
私も日本語上手になりたい!
今度日本語、教えてくれますか?」
そう尋ねられ、
「時間があればね……」
と返した。
今はまだ、人と関わることが億劫だった。
要君の事を考えると、
まだ何もやる気が起きない。
アメリカに来たばかりの頃は、
そんな感じで生きた屍の様に生きていた。
僕はこの4月からニューヨークにある
ビジネススクールに通っている。
授業について行くのは大変だけど、
やりがいがあって楽しい。
宿題や読み物が沢山あるけど、
忙しくしてると要君の事を考えなくて良いから楽だ。
「ねえ、キャンパスに郵便局ってあるの?」
「郵便局は入って無いけど、切手だったら売店で売ってるわよ」
「うーん、切手だと幾らになるか分かんないな〜」
「何? パッケージを送るの?」
「ううん、手紙だけど、
日本へ送るんだ」
「え〜 今時手紙?
オンラインでメッセージ送ったらすぐじゃない!
何をわざわざそんな時間かかる手紙にするの?」
「これはね、特別な人に対して出すんだ。
手紙の方があったかいでしょう?」
「え〜 でも今封筒に入れたのって
授業で取ったノートじゃなかった?」
「ハハハ、僕が何を学んでるか分かって楽しいでしょう?
アメリカで頑張ってるって言うのが分かって良いんじゃない?」
「え〜 私だったらヤダよ〜
もっとコージの近況が知りたいけど〜
今こうしてるとか、あれしてるとか……さ。
でも、それ誰に出すの?
お友達?」
「フフ、こう言うのもらって喜びそうな子だよ」
「あ、怪しい〜
恋人でしょう?
そうなんでしょう?」
「だったら良いんだけど、
残念ながら違うよ」
「ねえ、コージって日本に恋人いるの?」
その問いに少し固まった。
アリッサは少し???と言う様な顔をしていたけど、
直ぐに何の悪気もなさそうに、
「何て顔してるの!
死刑宣告された犯罪者みたいよ!」
そう言って僕の背中をバンバン叩いた。
そこでハッとして現実に戻された僕は、
彼女の顔を見て、
「いえ、彼女はいません」
と答えた。
「ねえ、私、日本人のボーイフレンド欲しかったんだけど、
私と付き合わない?」
そう聞かれて、
「ごめん。
恋人はいないけど、
好きな人がいるんだ。
失恋したんだけど未だ誰とも付き合う気持ちは無くって……」
そう正直に言うと、アリッサは残念そうな顔をしていた。
僕は思っていたよりも要君との別れがトラウマになっている様だ。
自分で決めた事なのにこの気持ちだけは上手くコントロール出来ない。
本当は誰かと付き合ったりした方が
早く忘れられるのかもだけど、
今のところは全然そんな気になれなかった。
「じゃあさ、付き合ってはもう良いから、
今度食事にでも付き合ってよ!
私ね、ジャパニーズのママのいる友達がいるんだけど、
彼もジャパニーズのお友達が出来たらうれしいとおもうわよ!」
「ハハ、それくらいだったらお安い御用さ。
僕も友達が増えるのはうれしいからね」
そんな流れで、僕の留学生活は順調に出発していた。
そんな留学生活も夏休みが終わり、
秋の学期がやってくる頃には、
僕もアメリカでの学生生活にも慣れて、
キャンパスにも全生徒が戻って賑やかになっていた。
僕の通った大学は、秋と冬をセメスター制にし、
春と夏をクウォーター制にしてあり、
生徒の殆どは春・夏と実家へ帰り、
秋と冬のセメスターに授業を取っていた。
秋の新学期が始まる頃は要君の事も段々と思い出に変わりつつあり、
すべては順調に進んでいた。
そんな時アリッサからもう既に忘れかけていたお誘いがあった。
「カイがキャンパスに戻って来たのよ!
是非今週末一緒に食事に行きましょう!」
「え? カイって?」
「ほら、ママがジャパニーズだって言った私の友達よ!」
「あ〜 そんな事言ってたね、
ここに来たばかりの頃だったからすっかり忘れていたよ!」
「彼は夏は実家のあるロサンゼルスに帰ってたからね。
昨日電話で話したら彼も是非コージに会いたいって言ってたから!」
「嬉しいね〜
それじゃあ今週末のいつにする?」
「じゃあ、金曜日の夜に私のアパートで
スキヤキパーティはどう?
そろそろ日本食が恋しい頃でしょう?」
「君、スキヤキ作れるの?」
「カイのママがこっちに遊びに来たときに学んだの!
スキヤキって美味しいのね〜
1ヶ月に2、3度は作ってるわよ!」
「それは楽しみだね!」
「じゃあ、金曜日の7時に私のアパートでね。」
「何か持って来て欲しいものとかある?」
「だ〜い丈夫よ!
これはコージの歓迎パーティだから身一つで来て!」
「ハハ有難う。
それじゃあ遠慮なく!」
そう言ってやって来た金曜日に、
教えてもらった住所に行ってベルをならすと、
「は〜い」
と言ってアリッサが出て来た。
カイも既に到着している様で、
アリッサの後ろに一緒に立っていた。
「これ、お土産」
そう言って花束を渡すと、
「まあ、ありがとう!
ジャパニーズボーイがこう言うことするって粋な計らいね。
私ジャパニーズボーイズはこう言う事にはシャイだって聞いてたわよ」
「え〜 何処でそんな情報学んだの〜?」
「へへ〜
カイのお母さんがいっぱいニッポンの事教えてくれるの!」
「へ〜
カイのお母さんと仲良しなんだね」
「そうよ、すっごい気さくで優しいお母さんだよ!
良くメッセージ交換するんだ!
コージもいつか会えたら良いわね!」
「そうだね。
もうカイってきてるんでしょ?
君の後ろにいるのが……」
「そうそう!
じゃあ紹介するわね。
これがカイよ。
で、カイ、こちらがニッポンから来たコージよ!」
「カイです。宜しく」
そう言ってアリッサの後ろから、
恥ずかしそうに出てた来たカイを見て僕の周りの空気が凍った。
柔らかそうな栗色の髪に
大きなアンバー色の瞳……
恥ずかしそうに、はにかんだように微笑む笑顔。
カイは見た目どころか、
雰囲気までも要君にそっくりだった。
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