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第5話 歪な僕の思い
疑問に思っては頭の隅に追いやって、
それを繰り返していくうちに、
カイの世話焼きっぷりは僕の思いを上回ってくるようになった。
余りにものカイの熱心な気使いに、
「カイ、そんなことまでしなくっても良いんだよ。
僕は大丈夫だから、自分の時間は自分の為に使って?
それに、僕とばかりいたら、他の友達とか大丈夫?
卒業の準備なんかもあるんでしょう?」
と言ってしまった。
別に迷惑だとか思っていた訳では無い。
本気で、カイ自身の生活の事を心配していた。
やっぱり、僕に時間を使っていると、
彼の時間が無くなる。
彼は大学最後の年で、これから卒論の準備とか、
就職とか、厳しい状況が待っているはずだ。
そんな中で、僕の為に時間を割くのは彼にとって、
得策であるとは思えない。それは時間の無駄であり、
無理をすれば、健康にも害が来るのでは?
そう真剣に思っていた。
一方カイの方は
「僕の事…… 迷惑?」
と少し悲しそうな顔をした。
彼自身の思いは僕の心配とは関係ないようだ。
「イヤ、迷惑とかじゃないけど……」
と言葉を濁すと、彼はニッコリと微笑んだ。
これ以上会い続けるのは僕に取っては避けたい事なのに、
どうしても強く彼の事を跳ね退けることが出来なかった。
彼の向ける悲しそうな目が要君の様で、
どうしてもイヤと言えなかった。
僕は断れないまま、ズルズルとカイの好意を受け続けていた。
そしてカイの事を知って行くたびに、いけないとは分かっていても、
僕はカイと要君が重なる部分を探した。
初めてカイに出会った時に予感はしていたけど、
カイと出会ってしまった今となると、
もう要君の事を簡単に忘れるのは無理だった。
まさかこんなところに落とし穴が待っていようとは……
僕は何をしにアメリカに……
確かに勉強もしたかったけど、
それは日本でも出来たはず……
やっぱり一番の目的は要君を忘れる事だった。
これは現実から逃げた僕への罰なのだろうか?
少なくとも、カイには決まった相手もいなければ、
好きな人も居無さそうだ。
それだけが、せめてもの救いだった。
もしこの先、彼の事を好きになった時、
要君の時の様な二の舞はしたくない。
だから、無理に忘れずに、時に任せようと決めた。
カイと会っているうちに、いい方向に転がるかもしれない……
その時が来たらきっと忘れらる時が来る!
時が解決してくれる! そう信じて……
カイと過ごすうちに、
僕は幾つかのカイと要君が重なる部分を見つけた。
本当はそうするべきじゃ無かったのかもしれない。
でもどうしても、
カイを見る度に要君の事が思い浮かばれて、
どうしても僕の頭から離れてくれない。
要君の傍に居たい……
でも居たくない……
カイは要君じゃない……
でも彼が要君を忘れさせてくれない……
カイが要君の事を忘れさせてくれないのは容姿だけじゃ無かった。
カイも要君の様に良く笑う。
そして笑った顔は、凄く可愛い。
怒ると要君と同じ様に、
真っ赤になってプンプンとしたように怒る。
大きな目がクルクルとして、良く表情が変わる。
涙もろくて、悲しい映画やドラマを見ると、
顔をクシャクシャにしてボロボロと涙を流して泣く。
二人が重なる部分を見つけるたびに、僕のカイに対する態度が、
要君に接していたような態度に変わって行った。
一緒に居れば寄り添って映画やドラマを見て、
夕食を作りに来れば一緒にキッチンに立って食事を作って、
味見をすれば食べさせてあげたり、
髪が頬に掛かっている時はそっと払いのけてあげたり、
寝ぐせが付いている時は頭を撫でてあげたり、
泣いている時は胸を貸してあげたり、
色んな行事からカイを優先し始め、
最終的には二人でデートの様に良く出かけたりするようになっていた。
性的な関係こそは無かったけど、
他の人から見ると、恋人同士に見えていただろう。
僕達はお互いに好きだとか、愛してるだとか言ったことも無い。
でも、アリッサも、僕達が付き合い始めたと思っていたようだ。
だからそれがカイを余計勘違いさせてしまったんだろう。
なにかアリッサから言われたのか分からない。
彼女に何か相談していたのかもわからない。
もしかしたら僕との仲を煽られたのかもしれない。
時を一緒に過ごすうちに、何時しかカイも年上なのにも関わらず、
要君の様に僕に甘えるようになっていた。
一緒に居ると、ボディータッチが増えてきた。
そして時々しか訪ねて来なかったアパートにも、
毎日の様に入り浸るようになった。
カイが僕に引かれて行っていたのは手に取るように分かった。
そんなカイを僕は突き放したり出来なかった。
僕は、また要君が戻ってきてくれたようでうれしかった。
僕自身もカイでは無く、
要君に接していると勘違いしている部分があったことは否めない。
早く言えば、カイを要君の身代わりにしていた。
でもそんなこと、カイは基、アリッサでさえも、
ここでは誰一人知らない。
日本を離れる時、思い出は全部日本に置いて来た。
要君の連絡先や写真でさえも持ってきてない。
でも置いてこれなかった物が一つ。
それは要君への想いだった。
後で考えると、カイには凄く酷い事をしていた。
要君の身代わりにするなんてやってはいけない行為だった。
僕は自分がしている事が分かっていたのに、
それからの僕らの距離は少しずつ、少しずつ段々と近ずいて行った。
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