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第6話 進んでいく関係
新学期が始まって生徒が学校へ戻ってくると、
ホームカミングの行事が開催される。
主に、パレードやダンスパーティーなどである。
ダンスパーティーは男性がパートナーに申し込み、
OKをもらうと、パーティーに参加する。
パーティーの会場も高校生とは打って変わって、
ホテルのダンスホールなどを借りたりして大々的に行われる。
きっとカイが一週間くらい前からソワソワとしていたのは
この為かもしれない。
「イェ~イ!
私、ホームカミングダンスパーティーに誘われちゃった!」
そう言いながら、アリッサが教室に駆け込んで来た。
「それはおめでとう。
誰と行くの?
僕の知ってる人?」
「ノ~ コージは知らない人ね。
彼もニッポンオタクなの!
今度紹介するわね!
私がね、アニメのキャラTを着てたら話し掛けられてね、
すっごい盛り上がっちゃって!
好きなアニメやキャラが同じなのがとっても多いの!
話していくうちに、どんどん仲良くなってね、
ついさっきダンスパーティーに誘われちゃった!
これを機会にもしかしたら、もしかするかも!」
アリッサは凄く興奮した様にして話した。
「去年は行かなかったの?」
そう尋ねると、恨めしそうに僕を見て、
「誰も誘ってくれなかったわよ……」
と大きなため息を付いた。
僕がハハと笑っていると、
「コージは勿論カイを誘ったんでしょう?」
そう尋ねられ、
「いや、行くつもりは無かったんだけど……」
そう返すと、
「あなた! 何言ってるの!
これは恋人同士だったら絶対必須行事なのよ!
貴方が誘わなかったら、
カイは一人寂しくこの日を過ごさないといけないわよ!
ずっとあなたのお誘いを待ってるのに、
今すぐ誘ってきなさい!」
そう言いてアリッサに背を押された。
参った……
僕はホームカミングのダンスパーティーなんて行くつもり全然なかった。
それに恋人同士って…… 別に付き合ってる訳では無いんだけど……
それってやっぱりそういう事なのだろうか?
やっぱりカイが最近ソワソワしていたのはそのせいだったのだろうか?
会う度に僕の目を見ては何かを言いたそうにしていた。
もしかして僕の誘いを待っていたんだろうか?
ダンスパーティーなんて別に興味ないし、
行ったことも無ければ踊ったことも無い。
カイを誘ったとしても、
何をどうして良いのかさっぱり分からなかった。
カイを探して歩いていた時に、
彼の後姿を見つけた。
後姿を見ただけでもカイだと分かる。
後ろからも要君にそっくりだったから。
でもカイは廊下の掲示板の所に立って
何かを思いつめた様にしてボーっと見ていた。
声を掛けようとした時に、
友達らしき人に声を掛けられその人と共に歩き出した。
もしかしたら次の授業が同じなんだろう。
声を掛けるの後にしようと思って、
僕はカイが去ったあと掲示板を見に行くと、
そこにはホームカミングの案内が張り出されていた。
あんな表情で見ているってよっぽど行きたいのだろうか?
それって僕でないとダメなのかな?
余り気が進まなかったけど、
今夜彼が家に来たら尋ねてみようと思った。
僕の授業はその日はお昼までだったので、
カイとはランチの約束はしていない。
アパートへ帰ろうと大学を出ようとした時に、
カイがロビーの角に立っているのが見えた。
「カイ!」
そう声を掛けたけど、彼には聞こえなかったようで、
僕はカイに近ずいて行った。
どうやら彼は誰かと話しているようで、
「ホームカミング……
ダンス……」
という単語が聞こえてきた。
“もしかしたらダンスに誘われてるのかもしれない!
僕が誘う必要は無いのかな?”
そう思いながらも死角に隠れて、
カイの様子をじっと見ていた。
僕がそっと壁の陰からカイの表情を盗み見していると、
カイがうつ向いて “ゴメン” と言っているのが聞こえた。
恐らく断ったのだろう。
僕はそのシーンを見た時、何故が優越感に浸った。
さらに二人の様子を見ていると、
なんだか言い争って?いるような感じだった。
多分相手の男が食い下がっていたのだろう。
それに耐えかねたカイが去ろうとした時、
相手の男も負けていなかった。
カイの腕を掴むと、
「ちょっと待って、考え直して?
せめて一晩考えて?」
と何度もカイに向かって頼んでいた。
それを見た時、
僕の頭がカーッと湧き上がった。
ツカツカとその場に出て行くと、
「カイ! 探してたんだよ!
ホームカミングのダンスパーティはどの会場が良い?」
と声を掛けてしまった。
その時、自分自身の行動が信じられなかった。
“え? 僕、今何した?
彼等の会話を遮った?”
高校生の時、同じような光景に出くわしたことが何度かあった。
そう、要君が他の男性に声を掛けられたとき……
その時も頭の中がカーッとした。
気が付いたら要君の前に立ちはばかり、
彼を庇うように相手の男に睨みを利かせた。
高校生の時の記憶がサッと甦って、
要君が誘われているような錯覚を起こした。
でも我に返ると、安堵した様に僕を見ていたのはカイだった。
カイは僕の顔を見ると、嬉しそうにニコッと笑った。
その微笑みが僕の心に突き刺さって
酷い罪悪感に苛まれた。
“違う、彼は要君じゃない!
彼はカイだ!
彼に誤解をさせてはいけない!
僕が好きなのは今でも要君だ!
カイではない!”
でも、もうその時は既に遅かったのかもしれない。
僕に走り寄ったカイは僕の胸に飛び込むと、
ダンスに誘っていた男に、
「そういう訳だから、本当にゴメン!」
と言って、僕の手を取って歩き始めた。
その男は只、呆気にとられたようにして僕達を見送っていた。
それとは逆に、カイはとても興奮した様にしている。
さっきまで凄く思いつめたような顔をしていたのに、
その目には輝きが戻っている。
「浩二、僕、凄く嬉しい!
ずっと君がダンスに誘ってくれるのを待ってたんだ。
これって、君が誘ってくれたって取っても良いんだよね?」
目をキラキラとして尋ねられると、
もう何も言えない。
やっとの事で
「勿論さ!
ずっと機会をうかがっていたんだよ!」
とは言ったものの、
僕の心はズキズキと痛んでいた。
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