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第8話 流されていく僕の思い
「ちょっと、ちょっと、ダンスパーティーの時は
二人ともいい雰囲気だったわよ~!」
目を輝かせながらアリッサが教室にやって来た。
「いや、アリッサこそ何なのあの雰囲気は!
べったりとくっついて、キスしそうな勢いだったよ?」
「あら、知らないの? 付き合って無くっても、
ああいう場では雰囲気でキスしたりするものよ!」
僕は目が丸くなった。
アメリカってそういうもの?
彼氏・彼女じゃ無くっても、
噂に聞くようにキス位挨拶みたいなもの?
じゃあ、僕がカイにキスしても彼は何とも思わない?
そう思っていると、
「あ、でもカイにはダメよ。
彼は本気でないとやらないから。
私はこういう性格だから勢いでやっちゃうけどね」
と釘を刺された。
「え? てことは君とトムは……」
そう僕が尋ねると、
「まだ付き合ってない!」
ときっぱりと答えられた。
どうやら、付き合うにはまだ至ってないらしい。
アメリカ人の感覚は僕にはまだ分からない。
いや、今の若者は日本人でも割と遊んでる人っているよな?
でも日本人の場合、キスって凄く大切な好意じゃないか?
どちらかと言うと、セックスは出来てもキスはダメとか……?
取り合えず、遊びでカイには手を出すなって事だな。
それだけは分かった。
でも僕がカイに対してやってる事は最低だ。
要君に恋をしていると気付いて以来、
僕は駆け引きを覚えた。
また引くことも学んだ。
そして失恋することの痛みも……
でも流された事は無かった。
アメリカに来て半年。
日本に居た時は、割と恋愛に関してはハッキリとしていた筈なのに、
今は、流されてばかりだ。
これも要君に失恋したことが尾を引いているのかもしれない。
カイに対しては、恋愛感情を抱いている訳では無いけど、
遠慮がちに寄り添うカイに僕は弱い。
カイはお母さんが日本人だとしても、
アメリカで育った人にしては控えめな方だ。
それでも、出るところはちゃんと出て来る。
そんなカイについつい流されてしまう。
ハッキリとしていた僕の恋愛感覚は何処へやらだ。
失恋をして傷つく事も学んだのに……
それなのに……
カイの気持ちを知りながら、
カイを要君の身代わりにしている。
僕が少し寄り添い返すと、
カイは少し積極的になる。
僕にも要君に対して積極的な部分はあった。
でも、それは純粋な思いからで、
決して流されたわけではない。
カイに流されてしまう事で、
僕があんなにも純粋に抱いていた要君への思いが、
少し穢れたような気がした。
それでも、好きの言葉も、愛してるの囁きも、体の関係もないまま、
相変わらず僕とカイの距離は変わらずに進んでいた。
カイは待っているのだろうか?
僕からの愛の告白を……
だったらなぜ自分からはしないのだろう?
カイが僕に恋愛感情を抱いている事は一目瞭然だ。
カイは僕の気持ちを知っているのだろうか?
だから躊躇しているのだろうか?
それともカイが僕の事を好きだと思っているのは、
僕の自意識過剰なのだろうか?
クリスマスが近ずく頃は、
お互いがお互いの心の探り合いの様な感じだった。
そんな中、カイにクリスマスに彼の実家へ、
一緒に行かないかというお誘いがあった。
最初は躊躇した。
彼の家族に会うと、後戻りできないと感じたから。
でも、カイの熱心なお誘いで、
羽を伸ばすつもりで尋ねる事にした。
彼の家族はとても親切で、
アリッサの言った通り、
カイのお母さんは気さくな優しいお母さんだった。
そして彼の家族も、父親がαで母親が女性のΩの家族だった。
彼には兄弟が3に居たけど、Ωは彼だけだった。
「ねえ、矢野君、
アメリカってΩにとって住みやすい国だと思わない?」
そうカイママに尋ねられ、
「そうですよね。
僕も友達に言われて初めて気付いたんですが、
Ωに対する差別とかって見ませんね。
ずっと生活に慣れる事に集中していたから、
友達に言われるまで気付きませんでした」
確かにアメリカにはΩに対する保護法がある。
その法を破った者は、厳罰が下される為、
法を守る人達は普通に守る。
でもどこにでも犯罪をする人はいるわけで、
法を破る人は破る。
そう言う人達の集まる場を避ければ、
Ωにとっても、実力が認められ、
普通に人として過ごせるような国だった。
「お母さんはもうアメリカに来て長いんですか?
お父さんとはどうやって知り合ったんですか?
やっぱり留学とか?」
そう尋ねると、カイママはカイパパの顔を見て、
ニコリと微笑んだ。
「私ね、日本のアメリカ軍基地の近くに住んでたの。
あの日…… 今でも考えると震えが止まらないんだけど、
急に発情期が来ちゃって囲まれたところを彼に助けてもらって……
ほら、アメリカって法律でαもΩも抑制剤を常備している事は
法律で決められているでしょう?
彼がね、直ぐに抑制剤を飲んで助けてくれたの。
それからかな……ね」
そう言ってカイパパを見つめるカイママが可愛くて、
カイはいい家庭で育てられたんだなと言う事が直ぐに分かった。
「ほらほら、年よりの恋バナよりも、
若い者同士でクリスマスライトでも早速見に行ったらどう?」
カイママに押されて、僕とカイは
住宅街がクリスマスライトのスポットになると言う
地域へと向かった。
ここは車で回るみたいだけど、
凄い人行列で、人気があるって言うのも分かった。
でも、カイの運転する車に乗ってデートをするって
何だか変な気分だった。
変な気分と言うか、デートは僕がエスコートしたいのに、
されているような感覚で僕としては少しモヤモヤの残る夜だった。
アメリカのクリスマスは専ら家族で過ごす日で、
恋人同士が主流になってる日本とは大違いだった。
アメリカで過ごす初めてのクリスマスは大いに楽しめた。
そして家族で時間を過ごすことの大切さを学んだ。
クリスマスの夜は全ての家族行事が終わった後で、
カイと巨大なクリスマスツリーが
ショッピング街にあるのでそれを見に行こうと言う事になった。
それは天にも届くような巨大ツリーで、
クリスマスの夜だからか、
人も少なく、割と静だった。
巨大ツリーから続く街路樹もライトで飾られていて、
カイとその並木道を歩いた。
日本だとクリスマスは凄く賑わっているのに、
ここは静かすぎた。
“要君は今頃何をしているんだろう?
今年のクリスマスも裕也と一緒かな?
チョットだけまだ妬けるな……”
そう思うと、この静けさが僕をとても切なくさせた。
目を凝らすと、少ない人の中にも、
チラホラと恋人同士らしき人達が
手を繋いで歩いている姿を目にした。
そしてクリスマスライトの元、
お互い見つめ合って微笑むと、
お互いの頬に手を置いたり、優しくキスをしたりしていた。
僕もその空気に当てられたと言う訳では無いけど、
カイの手を取ると、彼も僕の手を握り返してくれた。
彼の手は暖かかった……
切なかった僕の心が少し高ぶった。
クリスマスマジックとはこのことを言うのだろうか……?
僕達は暫く辺りを歩いた後、
一本の木の下に立ち止まると、
僕はカイを見つめた。
カイも僕がやろうとしている事が分かったのだと思う。
静にカイが目を閉じると、僕はゆっくりと顔を彼に近ずけ、
そして僕達は初めてのキスをした。
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