水に咲く花

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「これで、あいつの右目を刺してきて」  木蓮はかばんから取り出した棒状のものをテーブルの上に置いた。彫刻刀だ。柄の部分の刻印が陸矢のとは違うので、学校の購買部に売っているやつではない。陸矢も同じものをもっている。陸矢は木蓮を見た。いくらなんでも冗談だろう。からかって面白がっているだけだ。いつ笑いだすのかと思っていたが、上目使いに陸矢を見る木蓮の瞳はよどむことなくいつまでも黒々と沈んだままだ。 「なんなら殺してくれてもいいけど」  ひそめた声がかえってなまなましく陸矢の耳朶を打った。木蓮の視線は陸矢に向けられながらもその端で陸矢の肩越しに例の男をじっととらえているように思えた。 「最低限、右目をだけはつぶしてやらないといけないの、絶対に」  言いながら木蓮は右手首の赤いベルトを左指でそっとなでた。
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