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結局データの保存状況もどうでも良くなって、テーブルの前から抜け出した。それと一緒に、尊い犠牲になった男の広い肩を、ついさっきまで私に掛けられていた毛布で包み込んだ。
猫のように丸くなっているセイは、肌理細やかな肌をスウェット生地の袖に擦り付けている。どうせ今日も仕事だろうに、こんな劣悪な環境で眠っている彼は碌に疲れも取れていないだろう。
指先以外の労力を使わない私とは対照的に、彼はストレス社会で闘っている。
愚痴と思しきものを零された経験など一度もないけれど、セイの仕事が大変なことくらい社会人経験のない私にもよくわかっていた。
モコモコのスリッパに足を突っ掛けて、フローリングの上を滑った。そう遠くないキッチンに入って、毎日使っているエスプレッソマシンに粉末を投下し、スイッチを入れた。
眠気はほとんど消えている。
昨日作り置きしていた料理は綺麗になくなっているし、盛りつけられていた食器は、他の食器と共に棚の中で眠っていた。
セイが夕食を食べたらしいことに気付いて、自分がどれだけ眠っていたのか不思議になる。
いくら気を遣って静かに食事をしていたとしても全く気が付かなかった私は神経が図太いのかもしれない。
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