4818人が本棚に入れています
本棚に追加
セイの髪で散々遊びつくして、パソコンを起動していた事を今更に思い出した。ああ、と思ってパソコンのキーボードを打ってみるけれど、予測通りにスリープしている。もう一度電源を指先で押して、ロック画面が開かれるのを確認した。
パスワードは「3edw.」。はじめてこのパソコンを買った時、セイが考えた最強のパスワードだ。
何が最強なのかは正直なところさっぱり分からないが、魔性の男が言うのだから間違いないだろう。ということで、私は毎日このパスワードを打ち込んでいる。
打ち込んで、すぐにホーム画面が表示された。また今日も戦いが始まることにため息を吐きながら、エスプレッソを淹れていた事を思い出した。
私は基本的に、一つのことを覚えていると、それ以外を忘れる。恐ろしい才能だ。
くつろがせていた足に力を入れて立ち上がる。そうして足音を立てない様にキッチンへと向かった。キッチンの時計は六時を回っていた。そろそろセイを起こさなくてはならない。私はこの作業が、世界で一番嫌いだ。
少し冷めたエスプレッソを持ってリビングに戻る。そのままテーブルの上にマグを置いて息を吸い込んだ。
嫌だ嫌だと思っても、毎日は襲い掛かってくる。もういっそ、私たちを置き去りにしてくれたらいいのに。そんなことを思う私は臆病だ。
最初のコメントを投稿しよう!