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「セイ」
声に出して、セイの腕に触れた。温かい。彼は生きている。そんなことを確認して、少し安心してしまった。もう一度セイ、と呼びかけてみて、セイの睫が緩慢に動くのを観測した。もう起きる。彼は、今日も社会に飛び出して行ってしまう。
「りん……?」
少し舌足らずな声が聞こえて、思わず笑ってしまった。寝起きのセイはいつも子どものようだ。
「そうだよ。朝だよ」
「んー、あー、何時?」
「もう六時二十四分なのであるよ」
ふざけて喋ると、微かに頬が持ち上がる。どうやら少しウケたらしい。
「コーヒー淹れたよ」
「マジ? サンキュ」
軽く寝癖のついたセイが私の瞳を見た。おはようと呟くと、ぶっきらぼうに同じ言葉が返ってくる。それに笑ったら、セイは目の前に置かれたエスプレッソを手に取った。
「昨日ごめんね。寝てたみたいだよ」
「みたいってかガッツリ就寝されてました」
「うっ、すみません。毛布が装備されててびっくりした。ありがとうね」
「俺は今、リンにやったはずの装備が俺に装着されている神秘について考えてたとこだわ」
起き抜けのまま、エスプレッソを口に含むセイが笑う。それに合わせて私の頬からも笑みがこぼれた。小さな幸福を感じてしまう。それがまた私の精神を責めていた。
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