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夕刻。湖の畔に一人の少年が立っていた。
血の気のない顔をした、青白い少年だった。
夕立に降られたらしく全身ずぶ濡れだ。
君、どうしたんだい?
ずぶ濡れの少年に声がかけられた。
人懐っこそうな笑みを浮かべる青年だった。
……
青年の言葉が聞こえていないのか、少年は何も答えない。
僕が家まで送ってあげよう。さあ。
青年がすっと手を差し出す。
やはり少年は応えない。
振り返ることもせず、ただ目の前の湖をジッと眺めている。
やがて青年は諦めたように去っていった。
最近この辺りには妙な噂がある。
曰く、激しい通り雨が降った日の夕刻、人攫いが現われるのだという。
残された青白い少年が振り向く。
そこに足跡は見当たらない。
青年の足跡が見当たらない。
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