湖畔

1/1
前へ
/1ページ
次へ
夕刻。湖の畔に一人の少年が立っていた。 血の気のない顔をした、青白い少年だった。 夕立に降られたらしく全身ずぶ濡れだ。 君、どうしたんだい? ずぶ濡れの少年に声がかけられた。 人懐っこそうな笑みを浮かべる青年だった。 …… 青年の言葉が聞こえていないのか、少年は何も答えない。 僕が家まで送ってあげよう。さあ。 青年がすっと手を差し出す。 やはり少年は応えない。 振り返ることもせず、ただ目の前の湖をジッと眺めている。 やがて青年は諦めたように去っていった。 最近この辺りには妙な噂がある。 曰く、激しい通り雨が降った日の夕刻、人攫いが現われるのだという。 残された青白い少年が振り向く。 そこに足跡は見当たらない。 青年の足跡が見当たらない。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加