365日後の僕ら

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***  電話を切り、僕はスマホを置く。そのとき、自分の腕が震えていることに気が付いた。咄嗟に、もう片方の腕で、震えを止めようと、掴む。  が、そちらの腕も、また、震えていた。 「ははっ……」  掠れた、力のない笑い声が、ひとりきりの病室に響く。腕に、ぽつぽつと、水滴の跡がつく。 「……っ」  震える。全身が、恐怖に怯えて――止まらない。 「……大丈夫だ。約束は、守るから」  僕はスマホをまた取り出した。ウイルスに感染する前、彼女に渡そうと決めていた婚約指輪のホームページを開く。注文画面に飛んで、手続きを進める。送り先は、彼女のアパートの住所。到着日時の指定は、今年の12月31日。ちょうど、365日後だ。  注文を完了すると、僕は枕に顔を埋めた。 「っ、大丈夫……ちゃんと、生きるから」  まだ――身体の震えは止まらない。  僕は、彼女の名前を呼んだ。僕の発した弱々しい声は、ひとりしかいないの病室の、暗く淀んだ空気に溶け込み、そして、跡形もなく消えていった。
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