365日後の僕ら

1/9
前へ
/9ページ
次へ
「お誕生日おめでとう」  ありがとう、と電話越しに明るく答える彼女の声を聴いて、僕はほっとした。どうやら今日は、体調が比較的いいのかもしれない。 「会えないのが残念だぁ」と、名残惜しそうに彼女は呟く。「直接祝われたかった」 「ごめんね」と、僕は言った。「せっかくの誕生日なのに」 「まぁ、しょうがないよね。こんな状況じゃ」  今年の一月、未知のウイルスが海外のとある国で発生し、瞬く間に世界中に広がった。日本も例外ではなく、その前代未聞のパンデミックに巻き込まれた。世界は大混乱になり、テレビでは毎日、毎日、そのウイルスに関するニュースが報道されている。 「でも、もう一年経つんだね」という彼女の台詞に、そうか、と、時の流れを感じずにはいられなかった。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加