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今日は大晦日。毎年、年越しは誕生日祝いと兼ねて彼女と一緒に過ごしていたが、今年はそうもいかない。
「そっちの生活はどう?」と、彼女が聞く。僕らが会えなくなって、はや数ヶ月。こうして電話することだけが、離れている僕らを繋ぐ唯一の手立てなのだ。
「まぁ、それなりって感じかな。そっちは?」
「ぼちぼち、だよ。でも、やっぱりほら……出かけらないから、さ。友達とか、家族に会えないのは――ゴホゴホッ……その、残念だなぁって」
「体調、大丈夫?」
感染した者は、病院に隔離され、強い制限がかけられる。初期症状は、咳や倦怠感。これまで発生したことのあるウイルスより、感染力と致死率が高いのが、このウイルスの特徴なのだ。
「あ~、うん……。あんまり、調子は良くない、んだけど」と、彼女は言う。「でも」
「こうやって電話できて、声聞けると――それだけで、すごく、元気出る」
「うん、僕も」
あ――と、彼女が呟いた。
「年、明けたっぽい」
そうなのか、と、僕は耳元からスマホを外す。画面には『1/1 0:00』と表示されている。
「本当だ」
「誕生日おめでとう」
彼女が言った。
「ありがとう」
僕らの誕生日は一日違い。彼女が大晦日で、僕は元日なのだ。友達からは、“年越しカップル”などと、揶揄されている。
「残念ながら、プレゼントはありませ~ん」
おどけた口調で、彼女が言った。
「知ってる」僕は笑った。入院患者は、外部の人間からの差し入れは受け取れない決まりなのだ。
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