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プロローグ
望みはまだある。夜明けは近い。
果たして、彼女たちの何人が逃げ切れただろう?
両膝に手を突き、白い息を吐きながらヌヌは気遣う。
束ねた長い黒髪は泥で固まっている。着ていた麻の粗末な服はもはや襤褸布同然。履いていた靴も崖を登る時に脱げてしまっていた。シャルワールに似たパンツも裂けて、褐色の脚が殆ど露出している。三月とはいえ夜気はまだまだ冷たいが、今は感じない。
昨日の日没。射撃で優秀な成績を収めた五人の少女が村の広場に集められた。太鼓が鳴り響くと、少女たちは思い思いの方向へ駈けだした。その一時間後、それぞれに向け軍用犬が放たれた。
一晩中逃げている。睡眠などとる余裕はない。食べ物も何一つ口にしてはいない。雨季だった筈だが、小川は涸れ、僅かな水を掬い一口飲んだだけ。
心臓も肺も、もう限界。脚も、まさに鉛のように重い。あとどれぐらい走ることが出来るだろう?
肩越しに今走り抜けてきた葦藪を窺う。
朝霧漂う枯れ木の森が見える。
そちらから犬どもの咆哮。
近い!
いよいよ闘うしかないのか?
もちろん用意は出来ている。
この日のために今まで様々な訓練を受けてきたのだ。
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