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貴重な一瞬を得たヌヌは一番近くにいた犬めがけ駈けだすや、骸をさらに一振り。
今度は横腹にヒット。手応えあり。肋骨が折れているだろう。
そのまま犬どもの輪を走り抜け、攻撃されぬよう背後に骸を振る。しかし勢いが勝ったか頚だけを残し胴が千切れて飛んでいく。
チッとヌヌは舌打ちし、手に残っていた頭部を投げ捨て、走る。
ふと目線を遠くに投げかける。群青色だった空が茜色に染め上げられつつあった。湖面も茜色を映す。
冴えた一条の光が天空を突き射す。
間もなく刻限の夜明けだ。
「夜明けのサイレンが鳴るまで逃げ切れ。そして無事に還ってこい。それだけが今回のルールじゃ」
安堵に似た解放感がヌヌの心に込みあげてきた。
体力の限界を感じ、つい弱気になる。
もう、終る。あたしは逃げ切った!
いや、まだよ!
そう、もう一人の自分が警鐘を鳴らす。
一瞬でも油断すれば、勝負は終わりよ!
深いため息をつき、自分を戒める。
脚を止めることなく、肌を刺すような寒風の中ヌヌは駈け続ける。
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