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一瞬の間。
何かが空を斬る音。続いて重い何かが倒れる音。そして犬の苦しげな息遣い。
攻撃がない。
どうしたの?
ゆっくりとガードを解き、周囲を見回す。
「何やってんのよ!」
聞き覚えのある声。
「イリーナ……さん?」
見事な朝焼けの空をバックに短髪の少女が槍のような物を突き立て、ヌヌを見降ろしていた。東欧美女の血を受け継ぐその表情は逆光で見えない。
「血祭りに上げられるのは、アンタの方じゃない? 柄にもないこと言ってさ!」
「聞いてたの?」
「ハハハ。駈けて行く犬を見たから追って行ったらアンタがいたって訳」
緊張していたヌヌの顔が赤らむ。
「間に合ってよかったよ」
イリーナがそう言った瞬間、遠くから間延びしたサイレンの音が伝わってきた。
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