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牙を剥く犬より、司祭のその悪魔のような形相にヌヌは恐怖を覚えた。
それ以降、ヌヌの心に憐憫と言う感情が消えた。
が、完全に消し去ることは出来ず、毎回危機に直面した。彼女の左腕に一か所。右足に一か所。左足には二か所、噛み傷が残っている。
今また、その自分の弱さに襲われていた。
「殺さなければ、殺されていた筈よ。だから、殺したまで」
ヌヌと同い年のイリーナが、ナイフで犬を屠ったあと無表情に答えた。ヌヌは村出身でないため、儀式のステップがひとつ遅い。
「それがこの世界の摂理じゃ」
イリーナの後ろに立った司祭がしかつめらしく言った。
また、彼女たちもそのように教育され育ってきた。
「目には目を、という言葉がある。そして等価交換、という言葉もある。似たような言葉に因果応報というのもある。やられたらやり返す。当然のことじゃ。我が同胞を殺した者にはそれ相当の報いが降りかかる」
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