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「おめぇを信じてるからな、おめぇが良いようにやってくれ。畑のこと、しばらく頼むな、サキ…」
「うん!」
次の日も夕刻前、男はサキのいる畑にやって来た。
「おめ、また来たのか。あの玉はずいぶん珍しいもんだ。どうやって手に入れた??」
男は嬉しそうに笑って言った。
「気に入ったか??あれは俺のとっておきだ!旅に出たときに仲間に貰ったもんだ。他所の国の宝石商とかいうのと仲良くなったとかでな!」
それなら男にとって大切なもののはず。なのに作物欲しさに、会ったばかりの娘にポンとやったのだ。
サキは呆れた。
「なんでそう言わなかった?おら、少ぉししかやってねえ…もっと欲しかったんなら…」
しかし男は首を横に振ってきっぱり言った。
「お前にやれたから、いいんだ」
「なんだそれ…」
畑仕事を続けるサキに、男は時々来る鳥を追払いながら話しかけてきた。
「お前、名は?教えてくれるか??」
「なんで会ったばかりの奴に、おらの名を教えなきゃなんねえんだ??」
「良いだろう?減る訳じゃなし。」
男は笑っている。サキはチラリと見て答えた。
「…サキ」
「サキかぁ!めんこい名だ!!」
男は嬉しそうに返す。
サキは名前を褒められ、少し恥ずかしくなった。
「…カラスに、人間の名前の良い悪いがわかるもんか……」
小さい声で軽口を叩いたつもりだった。
「あのなぁ、カラスにだって、めんこいのくらい分かるさ」
「…!!」
サキはその男に聞かれたのが分かってドキリ。
しかし男は気にした様子もなく、平然と言った。
「俺がお前をめんこいと思うのが、悪いか??」
男の言葉にサキは、顔に熱が集まっていくのが分かった。
「っ…黙ってみてろっ…集中出来ね…!!」
男に貰った玉を、サキは大切にしまっておいていた。
玉が気に入ったのもあるが、男にとって大切だったはずの物を、自分に簡単にやったのが妙に気になったからだ。
それからもサキは、体を壊した祖父の代わりに、一人で毎日畑仕事に精を出した。
その間にも若いその男は、毎日夕刻前近くになるとサキのいる畑にやってくる。
そして時々、光るガラス玉やら美しい石を渡してはいくつかの野菜と交換していった。
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