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ある日、男は哀れな姿でサキの前に現れた。
「どうした!?んなボロボロで…!!」
サキが男に駆け寄ると、傷だらけになった男は自嘲するように言った。
「…俺が集めていた光もん、取りに行ったら、違うやつに取られていてな…お前に作物の代わりにもらうためのもんは、何一つ残っていなかった…。取り返そうと行ったら、そいつの仲間共に返り討ちだ…。価値のありそうなもんをとっておいたが、そうそうそこらにあるもんじゃない…。もう、ここに来られなくなるな…理由もないのに、お前のもとに来ることなんて…」
聞いたサキは慌てた。
ようやく、男がいて一人の気が紛れていいと思ったのに。
一人に戻るのは嫌だった。頼りになる祖父はまだ動けない。
彼はカラスでも、いつの間にかサキの心の支えになっていた。
「来ればいい!!なんで来れないとか言うんだ!?おらが嫌だって言ったか!?カラスだから畑仕事できなくてもっ、獣だの鳥だの追っ払ってればいい!…っ…いなく…ならなくたって…」
サキは必死に、涙目になったのを隠すため、畑の土の方に顔を向け直した。
「…お前にこんな酷い姿を見られたんじゃ、もう来れないな…。…サキを嫁に貰いたかったな…」
男の悲しげな声に、サキはバッと顔を上げて言った。
「じゃあなんで来た!?そんなでも、会いたいと思って来たんじゃねえのか!?…そんな気の弱いカラスの嫁さんなんか、おらゴメンだ…!!気の弱い雀の嫁さんでももらえばいい!!」
男は何も言わない。サキは泣きたいのをこらえ、下を向いて片付けを始めた。
ザザッ…!!
近くから何かが空に飛び去る音。
「…!」
振り返ると男はもういなかった。
暗くなり始めた夕空に一羽だけ、ふらつきながらどこかに飛んで行く黒い鳥が見えた。
「…おら、なんてこと…!…なぁ、もう来ねえか…?もうおらのとこ、来ねえかよ??」
誰にも聞こえないような声で、一人呟く。
言い過ぎてしまったと後悔した途端、彼は空へ飛び立ってしまった。
サキは汚れるのも構わず、地に膝をついて泣いた。
「わぁああっ…っ…!!」
いて欲しかったのに素直になれず、余計なことまで言った。
もう来ないかもしれない。こんな冷たいことを言う奴のところになんて…そう思った。
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