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LAST
結局、彼女はどちらの子も宿さなかった。
失望と怒りから身勝手に抱いたのに、彼女の中の得も言われぬ心地好さ。
恋人に裏切られた悲しみより、もう今後彼女を抱けない事に落胆している自分。
正攻法ばかりが、人生じゃないのは分かってる。
ただ『お日様に顔を見せられない生き方はするな』という父の教えに従って今まで生きてきた。
『女性には優しくする様に』という母の忠告通り、女性に乱暴した事はない。
しかし激しいセックスが彼女をこんなにも濡れさせるとは思わなかった。
優しい愛し方ばかりが能じゃない、と知ったあの日。
アイツに対する仕返しはシンプルにした。
智生社長と先代社長の園田会長にチクったのだ。子どもっぽいが効果覿面。
常々二人は
『恋愛で役者としての色香を磨くのは結構、だが色事で仕事は取るな、実力で挑め』と枕営業を毛嫌いしているから。
僕は事の顛末を話し、自身の進退を仰いだ。
放映前とはいえマスコミに理由も明かさず辞退すれば、多額の賠償金が発生する。
「…事務所に迷惑がかかる」
と、うつ向いた姿勢で相談するフリをした。
二人がどうでるかは承知の上。
会長は激怒し、
「あいつはまだそんな事をしてるのか!」
智生社長は一言、
「兄さん…」
と愕然としていた。
しばらくして経営者の顔をした智生社長は、
「すまないが今は一連の出来事を無かった事にして、あの役に邁進して欲しい」
と僕に言って口外を禁じた。
結果、津久井は園田親子の芸能事務所に一切関与する事を禁じられ、仕事を干された。
僕自身はお咎め無し。
枕営業してくれと僕が頼んだ訳じゃないから。
胸がすき、演技に精進出来た。
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