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15
まだ薄暗い早朝、音を立てるのが躊躇われる程、全てが眠りの中だった。
目の前の安らかな寝顔の彼女を、いつまでも見ていたい。
僕は腕枕してる反対の方を動かし、彼女の前髪を整える。冬の吐息の様な白い肌が現れた。額に口づけしようと思ったら、
「う、うーん」
彼女は寝返りを打った。
僕は午後イチ、彼女は朝イチからの仕事だ。
本当はもっとイチャイチャしたかったけど、彼女の為に早く帰ろう。
そっと腕を外し、彼女の左肩の後ろに口づけた。僕は静かにベッドから降り、あちこちに散らばった衣類を拾い、身支度を始める。
布が素肌を滑る度に、数時間前の情事の激しさが思い出された。
別れ難い気持ちで、彼女の頬にキスを落とし、彼女の黒髪をすいた。
意を決して離れ、彼女の家から出る。
震える位外は寒く、目の前の津久井が住んでいる母屋は室内が暗い。好きな女が他の男のテリトリーにいるのは、経緯を理解してても癇に触る。
靴の踵が石畳でターンして、彼女がベタ褒めのガラスの箱を見上げる。
温室をリフォームしたという離れ。
津久井が見つけ温室栽培した華は、今まさに開花しようとしている。
甘い匂いに誘われ、寄ってくる虫は多い。虫除け役は暗黙の了解だった。
だが事務所の、津久井の当初の意図を外れて、僕自身が彼女の蜜を吸う恋人になった。
愛しい女性はまだ夢の中、後でモーニングコールをしてあげよう。
その発案が愉快で、身体が軽くなりスキップして鼻歌まで出た。
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