26人が本棚に入れています
本棚に追加
「その変なファンレターというのは、どんな感じなんですか?」
マネージャーさんが搬入業者と話す声が小さく聞こえる。
「…ここ最近美希、上から目線の女王様っぽい役が続いたから、何かソッチ系の人が勘違いしちゃってる感じなの。大丈夫だと思うけど文面がキモいから、念の為一人にしない様にって社長指示が出て…」
と又、業者に指示を出している。忙しいみたいだ。
智生社長は気配り上手だ。だから事務所の皆、安心してついていってる。
「僕、迎えに行きます」
そう言って車の鍵を取り、電話を切った。
駐車スペースに降り、車に乗る。
国産車だが。ツーシートでスポーティーモデル。父親が乗りたがってた車種だ。
郷里の道路では、日常使いの実用的なタイプが多い。実際、実家が保有する車は父の両親、僕の祖父母の通院や家族の買い出し等、日々の営みに便利な車種だ。
美希が鍵を返しに行っただけで、身一つをピックアップするならこの車で十分。しかし今後の事を考えると、積載量をバージョンアップした方が良いかもしれない。
都内で車を持つ必要性は薄いが、最近人の目が気になる事が多くなった。大物芸能人ではないが、マンション前で記者らしき影を感じる時もある。そんな時車で出てしまえば、気軽にプライベートの時間を謳歌出来る。
気になるのは、彼女がマネージャーさんからの電話を取らない事だ。
信号待ちの間、ふいに彼女と津久井のツーショットか浮かんだ。それも濃厚なやつ。
「まさか」
頭を振る。
彼女達が接する仕事は少ないし、同じ敷地に住んでても滅多に会う事がないと、以前彼女は僕の邪念を一笑に付した。
でも今日に限って、嫌な予感がムクムクと沸き上がる。
津久井の家は住宅街にあり、来客用の駐車スペースがない。だから一番近いコインパーキングに停め、僕は駆け足で向かった。
最初のコメントを投稿しよう!