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玄関からワンルームの室内が丸見えにならない様、葉が折り重なって目隠しをしてくれてる。その中に彼は立っていた。 「…」 「…」 お互い無言で見つめあう。 私が立ち上がるのと、彼が素早く駆け寄るのが同時だった。 急に目前に立たれ驚きを隠せない。私は故意に顔を背け、ポケットをまさぐり、 「はい、今まで有難うございました」 鍵を差し出す。 津久井は微動だにせず私の一挙手一投足に目を留めてる。沈黙が気まずく私は言葉を繋いだ。 「私物はないし掃除もしたし、借りた時のままだと思うけど。植物が一回り大きくなった感じ…」 ドサッ 突然両肩を掴まれ、私はベッドに押し倒された。 電光石火の出来事に目を大きく見開く。 陽光を背に受け、彼の顔が暗い。 「いきなり何?」 「…行くな」 初めて聞く彼の、胸を絞る様な声。 心にさざ波が立つ。 「…今更」 私は津久井の胸板を押して、彼の影から出ようとする。 「愛してる」 その言葉に、私の心臓は止まりそうになる。 体を繋いでた時でさえ聞いた事がない、その言葉。 無神経な男… 「何の冗談?時間が無いの、私行くわね」 睨む様に彼を見ながら、より強く押して彼を退かそうとする。 「佐竹ちゃん行くな!本当に好きだ!いや、愛してる!」 堰を切ったように告げられた。 「!!」 彼の背後は晴天なのに、雨が降る。 彼から大粒の涙が落ちてくる。 …駄々をこねる子どもみたい。 胸板にあった手を彼の目尻に移し、拭った。 「何なの、一体…」 津久井は開眼したまま涙を流し、 「…気付くのが遅かったんだ」 嗚咽が混じる声。 彼と視線を合わせたまま、 「そして、いつもの様に突き放すんでしょ?」 我ながらゾッとする程冷たい声が口から出た。 今まで聞かなかった言葉、 子どもみたいな涙で、 今更心の扉を押されても、もう迂闊に入れられない。 平常心が信条の私が彼と関わり、散々乱され傷ついたのだ。
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