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昨日パシェが寝ていた寝室にどかどかと押し入ると、そこにはパシェがいた。
「目が覚めたか!」
「大丈夫か!」
「よかったよかった」
口々に声をかけてくる村人たちの顔を見ながら、パシェは少しだけ難しい顔をしながら、自分の足元の布団をめくり上げる。すると、そこにあるはずの「ひざから下」がすっかりと、綺麗さっぱり消え失せていたのだった。
「お前…足は?」
そう問いかけた村人に、パシェはこう答えた。
「さっきお前たちが消し去ってきただろ?」
「消し去るって…あれは足あとだろ…」
「俺は夢の中で全部見ていたんだよ。昨日の夜からはずっと、夢の中でお前たちと一緒に広場にいたさ。誰が何をしゃべっていたかも全部知っている」
「?!」
驚きのあまり何も言えない村人たちに向かって、パシェはこう続けた。
「なんで俺がこんなふうになったかって教えてやろうか?」
「…足を無くした俺たちを恨んでいないのか?」
何とか言葉を吐きだした村人にパシェは言った。
「恨む?まぁ、恨んでないといえばウソになるが、命を助けてもらったと思えば足なんて安いもんだろ。それに俺は、誰も知らなかったこの村の言い伝えの真実が判ってご機嫌なんだよ。だから教えてやるよ」
子供のように無邪気な笑みをたたえながら、パシェは得意げに語った。
「足あとを残しておいてはいけない
あれは、本当のことだったんだよ。俺はあの広場に足あとが出来る前の日の朝に、村の隅の草をひっこ抜いて土をならして足あとを付けたんだ。何もなきゃもう誰も足跡を残すのに怯えることは無くなるだろ?で、あの日足あとが産まれた時から俺は目が覚めなくなっちまった。いや、ちょっと違うな。この世界の肉体は目覚めてはいないけど、精神はいつも通り目覚めてずっと活動をしていたんだ。村を歩き回って、広場にもいた。話しかけてもみんな俺の言葉は聞こえないし、殴ってもすり抜けて痛くもかゆくも無かったみたいだけどな」
「どういうことだ?」
「だから、この村に足あとを残しておくと、俺みたいに広場に足形が出来てそこから徐々に体が作られていくってことだ。その間、足あとを残した人間はずっと眠っているように見える。中身は普通に生活しているんだがな」
「完成してしまったらどうなるんだ?」
「それは俺にもわからん。でも、足を壊したら足が無くなっちまったってことは、体が出来てから壊れてしまったら…どうなるか想像できるだろ?」
村人たちは顔を見合わせて身震いした。
「あの言い伝えには、そんな真実が隠されていたんだな…」
「神も仏もあるってことか…」
「パシェ、よく教えてくれたな。ありがとう」
「いいってことよ!じゃぁ、今日は俺の功績をたたえて一晩飲み明かそうぜ?もちろん、お前たちのおごりでな!」
「現金な奴だ。でもまぁ、それもそうだな。村の英雄様の話をみんなで聞こうじゃないか!」
「何なら村人全員、俺の家の周りでお祭り騒ぎと行こうぜ!なぁ!」
パシェの威勢のいい提案を受け、村人たちはその日は一晩中飲めや歌えの大騒ぎ、お祭り騒ぎをしながらパシェを囲んで騒ぎまくった。
広場に自分たちの足あとが残っていることなんてすっかり忘れて。
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