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3
(春音side)
「こんなお店があるなんて知らなかった……」
わたしはその場に立ったまま、
喫茶店の方を見つめていた。
爽やかな空色で彩られた外装は落ち着いた
お洒落さがあって、
ドアの脇には雲と虹のデザインがされた
プレートがかかっていました。
上品な可愛らしいお店でした。
「セプト……クルール?」
しばらくして、それがお店の名前だというのに思い当たった。
その時、ドアがカチャリと開いて中から人が出てきた。
「あら、いらっしゃいませ」
透き通った女性の声でした。
わたしは彼女の美しい姿にまるで一目惚れするように見とれてしまった……。
……チリン。
ドアの脇に備え付けられている風鈴が穏やかな風で揺れている。
美しいガラスの音は、まるで、
鼓動のリズムの様に耳から離れなかった。
これが、運命の出会いだった……。
・・・
しばしの時間が経っただろうか。
喫茶店の店員の女性はドアの前に立って、
揃えた右手を店内に向けている。
わたしは彼女の姿を見つめたまま動かなかった。
彼女は20代くらいでしょうか。
腰まである黒髪はみどりの葉のように艶やかで、透き通る白い肌が綺麗だった。
アクセサリーの類は付けていないのにどうしてこんなに美しいのでしょうか。
「……えっと」
やっと声が出てきたわたしは、
緊張のあまり慌て手を振った。
お金は大切なのです、お店がお洒落でも無駄に使う訳にはいかない。
先ほど買ったメロンパンの事を思い出した。
「たしか、この辺で猫を見かけて……。
ここのお店に入ったみたいだから、
気になっちゃって」
お姉さんはふふふ、と笑いながら、
「ちょっと待っていてくださいね」
とお店の奥へ行ってしまった。
何をするのかな?
お店の奥を覗いて様子を伺ってると、
なんと先ほどの猫を抱えて戻ってきた。
わたしが探していた猫ちゃんだった。
猫は両腕を抱えられていて、物干し竿に干されているみたいなポーズが可愛かった。
「この子もよろしくって言ってくれてるにゃー」
丸い頭とまんまるのお目目、
やっぱり可愛い顔だなあ。
よしよし可愛い……。
!?!!?
まさかの猫パンチ!
猫の右手がわたしの顔に押し付けられてしまったのです。
可愛いねって撫でようとしたのにぃ。
・・・
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