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(春音side) わたしは春に生まれました。 だから、<春>にちなんだ名前を持っています。 出産の病院で見た花壇の花が綺麗で、 春の音色が響いていると思った。 お母さんはたしか、こんなことを言っていた。 4月も半ばになったある日、授業が終わって帰り支度をしているところでした。 「え……、春ちゃん?」 わたしはつい、上ずった声で答えました。 放課後が始まった教室では、数人のクラスメイトがまだ残っていました。 その中のひとり -たしか水泳部に入ったらしい- が声をかけてきたのでした。 「だって、春の名前がついているから、 春ちゃんだよ」  ・・・ わたしは廊下を歩いていた。 明るいクラスにはだいぶ馴染んだけれど、 なんだか自分から話す勇気がなかった。 誰かがこんなことを話している、 お昼休みに思い思いの様子を見せている、 その様子を見るだけでもなんだか楽しい気がした。 人付き合いが嫌いじゃなくて、どう返せば良いか分からないんだよ。 だから、話を振られても、 「スタバって美味しいのかなあ」って想像するんだ。 誘ってもらったのに、用事があるって嘘をついてごめんなさい。 それにしても、春ちゃんだって。 今までそんな風に呼ばれたことが無いから嬉しかった。 下駄箱で靴に履き替えた。 校舎を出たら、 午後の明るい陽気が差し込んでいた。 桜の木はすでに枯れていたけれど、 キレイな緑の葉っぱが輝いていた。 なんだか気分が良くなって、散歩をしてみたくなった。 「ようし、回り道して帰ろうっと」 わたしはこの春から街に住みだした。 だから、知らないことが多いから歩いてみたいんだ。 5分歩くだけで家に帰れるのだけど、 普段は行かない左方向に曲がってみよう。 キャスケットを被り直して意気揚々と歩いていった。  ・・・
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