前編

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 その日から今のこの年齢(とし)まで何人も可愛らしいお子さんや、また大人で綺麗な方にお会いする機会は沢山ありましたが、修吾坊ちゃまを初めて目にしたこの時ほどの驚きを持って眺めた方は一人もおりませんでした。  そんな風にして修吾坊ちゃまの子守を始めたわけですが、不器用で物慣れない私に対しても「ねえや」「ねえや」とよくなついてくれました。  いえ、他の使用人に対してもおっとりした良い子でしたけれどね。  そもそも怒るとか癇癪を起こすとかいうことがまずありませんでした。  私の世話など今、思い出すと、至らない点ばかりでしたけれど、修吾坊ちゃまだから何とか勤められたのだと思います。  まあ、他の使用人たちは皆、もう大人でしたし、御兄弟も一回りも離れていましたから、修吾坊ちゃまからすれば唯一人の遊び友達のような気持ちだったのかもしれませんね。
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