前編

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 *****  この可愛らしい坊ちゃまがどのような方だったかと?  そうですね、初めて坊ちゃまにお会いしたのは、桜がもう散って代わりにお庭に牡丹が咲いていた頃でした。  ええ、仰る通り、津川のお屋敷の庭園は、往時はそれは見事なものでした。亡くなった奥様が病弱で自由に外にも出られない息子のために様々な花を植えて丹精を込めて作られたとのことで。  ただ、その日、坊ちゃまにお会いするまで、私は正直、とても憂鬱でした。それまで生家にいる時も弟や妹の世話はしておりましたけれど、お給金を貰って他所のお子さんの面倒を見るのは初めてでしたし、こんな立派なお屋敷で生まれた時から使用人たちに仕えられて暮らしている坊ちゃまならきっとわがままな、自分のような貧しい生まれの子守娘など人とも思わぬ子供に違いないと思ったのです。
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