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何気ない会話で感じたほんの少し感じた違和感を、胡桃はそのまま口にした。
「ふぅん……。もう、好きじゃないの?」
「…………いいえ。今も、好きだと思うわ。きっとね」
「……そっか」
少し痛みを堪えるような表情。普通なら心配する場面かもしれないが、胡桃はぼけっとしたまま、納得を表す返事をした。その様子に、何かを我慢していないかと不安になったのだろうか。女性は、悲しそうに聞いた。
「君も、そうなのかな? みんなが仕事に行くと、寂しかったりする?」
「ううん。俺も、仕事中だから。今もちゃんと手伝ってるよ」
それは、子どもが料理が出来ない代わりにお皿を拭いてお手伝いと言っているような光景だった。真顔のまま小さくガッツポーズする姿には、エプロンをつけてあげたくなる。
「ふふ、そっかそっか」
「うん」
「……じゃあ、私はもう行くけど、お仕事頑張ってね」
「はーい」
初めとは逆に女性が胡桃を心配するような素振りを見せるが、用事があるらしく席を立つ。そして、呟くように付け足した。
「……ごめんなさいね」
「……? なんで?」
「お話、付き合ってあげられなくて」
本当に申し訳なさそうにされたが、胡桃には理解が出来なかった。首を傾げたが、すぐにスマホを取り出してみせた。
「ううん、平気だよ。これからイオと電話するから」
「そう。じゃあ、イオさんによろしくね」
「うん」
強風が樹木から葉をさらっていく中、髪を少し押さえて去っていく。その後ろ姿を見送りながら、胡桃は思い出したように呟いた。
「イオとは多分、サオもすぐに会えると思うよ」
そんな胡桃のポケットにはもう、仲間から預かった小さな装置は収まっていなかった――。
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