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頭痛を振り払いながら、用件に直結する質問を投げる。
「伊織さ、この前横浜で起きた、廃墟爆破事件って知ってる?」
「ええ、ニュースになっていましたね。それが?」
「犯人を特定したかもなんだけど、探してくれる?」
「……ほう」
鏡矢の申し出に、伊織の声色が変わる。先程までの柔らかさはどこへやら、ナイフのように鋭くなる。
「警察の方ではなく、僕にそれを頼むということは、相手はスティンク……という認識で、よろしいですか?」
「うん」
「……そうですか。ならば、動かないわけにはいきませんね」
完全に仕事モードに変わった音がした。深く呼吸し、深淵にも届くような冷たさを感じる。
「情報は、今からスマホに送る。伊織、今どこにいる?」
「中華街ですよ。遠そうですか?」
「うん……少し。そこからバスで15分、てとこかな」
「わかりました、すぐにつかまえます」
近くのバス停を脳内で検索し、動き出す準備をしているのだろう。何やらゴソゴソと音がし、雑音が酷い。すると、それに混じって、鈴の鳴るような声が聞こえた。
「……イオ、どっか行くの?」
「ええ、少し野暮用でしてね」
「ふぅん……」
鬼気迫る雰囲気はどこへやら、穏やかな声に変換される。それを聞いて、鏡矢はぽかんとした。
「何……、今くるみんと一緒にいんの?」
「はい。共に水族館へ行っていました。とても愛らしかったですよ」
「……魚が?」
「もちろん、それもありますよ」
「それも……ね」
目の前にいない相手に、呆れた視線を送る。現在、伊織の横にいる時乃胡桃への溺愛ぶりは、彼を知る者が認知出来ないわけがないほどなのだ。
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